【材料進化の最前線】CL法で窒化ガリウムの欠陥評価
半導体シリコンは溶液から凝固できる理想的な結晶だ。結晶の完全性は他の材料の比でなく、結晶内のシワ(転位)は完全になくすことができる。一方、窒化ガリウム(GaN)は溶液からの結晶化が困難で、工業的には異種基板の上に気相成長させるため、格子定数の不一致などにより多量の転位が入る。
発光ダイオード(LED)では、この転位は機能を大きく阻害しないためGaNの発光応用を実現する上で障壁にならなかった。しかしパワーデバイスでは貫通転位という結晶表面に垂直な転位があると不良が生じる。なぜLEDは転位があっても光るのに、パワーデバイスは転位があると動作しないのか。我々はこの謎にカソードルミネッセンス(CL)法で挑んだ。
発光を可視化
CL法では電子顕微鏡を使い、半導体から得られる発光をサブミクロン(1万分の1ミリメートル)の分解能で可視化して欠陥を評価する。パワーデバイスの製作工程ではn型基板の上にイオン打ち込みでp型層を作る(n型のキャリアは自由電子、p型は正孔)。しかし転位があると、このpn接合が動作しない。
接合部を詳しく観察できれば不良の原因が突き止められる。ただしイオン打ち込み層の厚さは1マイクロメートル以下(マイクロは100万分の1)であり、空間分解能が100ナノメートル程度(ナノは10億分の1)のCLでは厚さ方向に何が起きているかを明確に捉えるのは難しい。
深さ分解法
そこで考案したのが斜め研磨による深さ分解法だ。GaNデバイスを3度の傾斜で削れば、深さ方向は約20倍に拡大される。これで深さ方向の分解能を上げることに成功し、GaNデバイスの深さ分解像を撮ったところ、接合部より下のn型層のGaNに明点が多数現れた(図bの「基板」と「エピ層」)。
これは転位の発光を示し、発光にはイオン打ち込みしたマグネシウム(Mg)が関与している。驚いたことに、転位が拡散路として作用し、Mgが深さ方向に広がるとともに周りに染み出ていた。欠陥は、それ自身が悪さをすることもあるが、このように不純物を運ぶ道として働き、デバイス不良を起こすこともある。この原因解明でパワーデバイスプロジェクトは大きく前進した。
物は使いよう
転位による不純物の高速拡散はパワーデバイスにとってはキラー欠陥であるが、物は使いようである。不純物拡散が遅い材料に転位を利用して不純物を運んだり、ある特定の領域のみに不純物を注入したりすることも原理的には可能だ。新たな応用を目指して、我々は欠陥の評価と応用に取り組んでいる。
物質・材料研究機構(NIMS)機能性材料研究拠点 ナノ電子デバイス材料グループ 主任研究員 陳君
2005年浙江大学(中国)材料物理与化学専攻博士課程修了。博士(工学)取得。同年NIMSポスドク研究員、08年ICYS研究員、10年研究員。16年より現職。