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「いい仕事」の裏側に「余白」あり 仕事とともに成長するデスクが目指すもの

【連載】体験と礎 #1 PREDUCTS DESK

コロナ禍での出社制限やテレワークの拡大は、人々の仕事環境への関心を高めるきっかけになった。企業はオフィスの役割やリアルな空間の価値を問い、従業員が在宅勤務時の環境を見直す動きも目立った。働く場所と暮らす場所が密接になった生活では、机や椅子などを「仕事道具」と捉え投資する消費者も増えている。
 そうした中、天板の下に機能を持ったパーツを取り付けていくことで多様なスペースを生み出せるデスクが注目されている。PREDUCTS(プレダクツ・東京都港区)の『PREDUCTS DESK(プレダクツ デスク)』だ。単なる机ではなく、仕事の「プラットフォーム」として同製品が届ける価値は何か、その作り手はプロダクトを通してどのような体験設計を目指したのか。

デスクの“裏側”が生む余白

PREDUCTSは「いい仕事を生み出す道具のメーカー」として、仕事環境を整える製品開発に取り組む。2021年12月には事業全体の要となるPREDUCTS DESKの販売を開始し、SNSを中心に話題を呼んでいる。天板裏に走る4本のレールが特徴で、フックやトレイなどのモジュールを取り付けることで機能を持ったスペースが生まれる。

仕事場のデスクといえば書類や筆記用具など細々としたものが散乱しやすく、電源が必要な製品はケーブル類の収納に困ることも多い。一方、PREDUCTS DESKは広い天板に多様なモジュールを組み合わせることで、仕事や作業に使用している機材に合わせた環境作りに応える。ただ作業をするための家具ではなく、仕事のプラットフォームとして役割を定義した形だ。
 天板の“裏側”を主役にした設計思想は、長年フリーランスとして活動している同社の安藤剛CEOの仕事環境への想いが反映されている。
 「机の上がすっきりしていると心にも余白が生まれる。自分自身がこれまで天板の裏にケーブルを這わせたり、PCを天板裏に取り付けたりする中で実感した『デスクの裏側を活用して道具を整頓する心地よさ』を体験できるプロダクトを目指した」(安藤CEO)。

取り付けたモジュールの使用イメージ

デスク周りの整理整頓は安藤CEOが以前から研究してきた活動でもある。19年4月にメディアプラットフォーム『note』で同氏が公開した、デスク周りをスッキリさせるテクニックを紹介する記事は、モニターやカメラなどの配線に悩む人々を中心に反響があった。その後、note上に共通のテーマで記事を集められる機能を使った『デスクをすっきりさせるマガジン』を作成すると、2年間で60件以上の投稿が寄せられた。同マガジンには筆者それぞれが自身の仕事への想いを添えた内容も多く、ノウハウの紹介にとどまらない「よい仕事を生む環境作りのヒント」が集まっている。

こうしたデスク環境に対する他者の関心の高さや、記事を読んだ人からの「挑戦してみたいがDIYの知見がなく難しい」という声に触れた経験が事業の構想を後押しした。そして、コロナ禍で在宅勤務の環境整備に悩む人を目にする機会が増えたことが本格的な製品開発につながった。
 「個人として貯めてきた知見の共有から製品開発に移行することで、デスクを整理整頓して気分が良くなる体験をより多くの人に届けたいと考えた」(安藤CEO)。

「アップデート可能なハードウェア」を作る

リモートワークの普及が進む近年では、自宅におけるワークスペースの設置やDIYで仕事環境を構築する需要も高まっている。しかし家具類は組み立て後、同じ状態で使用するのが基本。ねじや釘で一度固定したパーツは設置後に細かな変更を加えていくのは難しい。
 そうした課題に対し、PREDUCTS DESKはレールとモジュールの組み合わせによって本体の継続的な変化を可能にした。
 「働く時間を重ねる過程で仕事には少なからず変化が起きる。それと呼応するようにデスクもアップデートできるのが理想と考え、モジュラー式の機構を備えたデスクを構想した」(安藤CEO)。

この「デスク自体が成長を続ける体験」の設計には安藤CEOの元々のキャリアであるソフトウェアデザイナーの知見が発揮されている。アプリやwebサービスが利用者の反応やOSの変化に応じて短期間で成長を重ねるように、使い手の仕事内容や生活の変化に合わせて“育つ”仕組みをプロダクトに取り入れた。

製品開発初期のアイデアスケッチ

さらに同社は利用者とのコミュニケーションにも力を入れる。現在開発を進める工具アダプターは「(モジュールを取り付ける際に使う)六角キーレンチを紛失しやすい」という購入者の声をヒントに製品化に取り組んだ。さらに、既にデスクを購入している顧客には同製品の試作版の無料配布を行うなど、コミュニケーションを継続する工夫も大切にしている。

少し先の未来の暮らしをプロトタイプする

製品の販売開始から約3ヶ月。安藤CEOは「PREDUCTSの製品開発を通じ、世の中の変化に対して“ここが足りないのではないか”という視点を持つ重要性に気づいた。少し先の未来を思い描きながら、新しい暮らし方をプロトタイプするようなモノづくりを続けていきたい」と力を込める。将来的にはデスクだけでなくその周辺で起きる体験のデザインを見据えて事業展開していく考えだ。

安藤剛CEO

PREDUCTS DESKの開発過程でも、完成までには多くのプロトタイプを作り、天板やレールなど各部品の工場と試行錯誤を重ねたという。特に、天板の“裏側”を主役にする設計は通常の家具制作と仕上げの優先順位が異なるため、作り手と長い時間をかけて品質を追求した。

働き方や暮らし方の多様化はモノの見方、考え方の自由度を大きく広げている。こうした変化の中では、ただ必要な機能を満たすだけでなく、消費者一人一人が自分に合った環境を作ろうとするニーズに応える視点も重要だ。そして、実現したい体験に対するプロダクトの在り方を問う姿勢は未来に続くモノづくり全体のカギになりそうだ。


※取材はオンラインで実施 記事中写真提供:PREDUCTS、Go Ando

関連情報:REFRAME 未来をプロトタイプするプロダクト展
会期:2022年3月25日(金)〜4月23日(土)12:00〜18:00 ※金曜・土曜のみ営業
会場:objcts .io白金店(東京都港区白金5丁目13-6)
出店ブランド:Ambientec、FORE_、muraco、PREDUCTS、objcts .io
詳細:https://objcts.io/pages/popup_reframe
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濱中望実
濱中望実 Hamanaka Nozomi デジタルメディア局コンテンツサービス部
新年度の異動やレイアウト変更でデスク周りを整理した方も多いのではないでしょうか。私自身、機材やモニターが増えると作業スペースを占拠したまま定位置化していく悩みを抱える一人です。棚や引き出しなどの収納を拡張していくのではなく、道具を本体に取り込むようにスペースを作るPREDUCTS DESKの取材を通して、仕事で本当に必要な物は何か考えるきっかけになりました。

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日常の何気ない体験を見直したりアップデートさせたりする視点を持つ製品開発の事例が増えている。デジタルデバイスがより身近になる中で「プロダクト」の概念もハードウェアに閉じたものではなくなった。働き方や暮らし方が多様化する中で、プロダクトの開発にはどのような視点が求められるのか。その作り手は社会とどう向き合うのか。(不定期連載)

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