企業から実態が見えない在宅勤務環境。「手当」は有効な手段なのか?
リモートワークが普及し、環境整備のためにリモートワーク手当を給付する企業も増えてきた。しかし、実際に手当が環境整備に使われているかを確認するのは困難だ。劣悪な就労環境では生産性が低下するにもかかわらず、個人の住環境に介入するのはプライバシーの観点から難しく、手をこまねいている企業も多い。また、新入社員などは手当分だけでは費用が足りない、何が必要か分からないといったケースもある。
そんな状況に対応するべく、リモートワーク環境整備に特化した福利厚生サービス「リモートHQ」を手がけるのがHQ(東京都新宿区)だ。「リモートワークが当たり前になっているからこそ、そこでの差別化が人材確保のためには不可欠」と同社の坂本祥二CEOは強調する。(取材・昆梓紗)
リモートワーク可だけでは差別化にならない
転職市場の求人が増える中で、リモートワーク関連のキーワードが多く検索されるなど、人材確保においても重要性が増している。ただ、一般化したことでリモートワークを導入しているだけでは訴求力が低くなっていることも事実だ。特に人材確保のニーズが高まっているエンジニア関連企業では新しい働き方への対応は必須であり、最近ではその内容がより重視される傾向にある。
しかし、企業がリモートワーク環境整備を内製化するハードルは高い。「エンジニアはそれぞれの機材やツールにこだわりを持つ人も多く、企業側が用意したリモートワーク対応製品に納得がいかず炎上した、という事例も。また企業側も個々の環境に合わせた対応を行うのは限界があります」(坂本CEO)。そのため多く導入されているのがリモートワーク手当だが、一律支給の場合は課税対象となり、手取り額が減ってしまう(※2)。
このような課題解決に向け、HQは福利厚生としてリモートワーク環境整備が行えるサービス「リモートHQ」を2021年11月にリリースした。従業員1人あたり月額2000円から導入でき、それに応じて付与されるポイントで従業員がリモートワーク関連機器をレンタルできる仕組みだ。デスク、チェア、モニターなど基本的なものから、観葉植物や健康器具などウェルネス関連のものなど約1000点を用意している。レンタル後の交換も可能なため、サイズ感や使い勝手を試し自分に合ったものを取り入れられる。
同サービスで特に強化しているのがパーソナライズだ。まず、ユーザーは事前質問に答え、リモートワーク環境写真を送付。それをAIが自動で分析するとともに、リモートワーク環境整備の専門コンシェルジュが最適な機材やツールをレコメンドする。企業側としても、個人の事情に直接介入しづらい点を第三者が入り指摘することで改善につながりやすいと好評だ。「どのような設備が必要なのか分からない、というだけでなく、リモートワーク環境が悪いという自覚がない人も多い。福利厚生は導入するだけでなく、サポートがなければ利用されないケースが多い」と坂本CEOは指摘する。
同サービスでは従業員のリモートワーク環境が見える化され、環境の優劣がランク分けされる機能がある。これにより、企業側は状況が把握でき、改善による成果が実感できる。また、ランクの低い従業員には基礎的なデスクやチェアなどからしか選べず、ランクが上がれば高機能キーボードやコーヒーメーカーなど、着実に環境を改善していけるような制御ができる。
ハイブリッドワークがメイン
サービスの特性上、興味を持つのはフルリモート企業が多いように思われるが、出社と在宅勤務のハイブリッドワークを取り入れている企業の導入が多いという。実際、製造業などリモートと現場作業が混在している企業への導入も決まっている。「リモート環境を積極的に充実させようとしている企業は、リモートと同様に出社の価値や意味を明確化しています。一人ひとりの職務や状況に応じた働き方を整備していこうという姿勢は、業種問わず重要になっています」(坂本CEO)。
同サービスは2022年に1万人への提供を目指す。また、新入社員向けにオンライン研修をパッケージにしたサービスも開始しており、4月に向けて拡販する。
コロナ禍の先行きが再び不透明になった現在、リモートワーク環境整備は採用力強化や離職率低下、生産性の向上に避けて通れない課題となりそうだ。
※1 キャリアデザインセンター【2021年女性の転職市場レポート】、転職先選びは「リモートワーク」前提!?、求人情報サイトの検索ワード首位に
※2 国税庁 在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)