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「微生物燃料電池」がCO2ゼロの排水処理を実現する日

栗田工業が大きな成果
「微生物燃料電池」がCO2ゼロの排水処理を実現する日

微生物燃料電池の実用化サイズまで大型化した装置(セル)

微生物の働きで発電する微生物燃料電池の研究で栗田工業が大きな成果をあげた。排水処理に導入できるサイズまで大型化できた。工場は排水を浄化しながら電気を作り、その電気で排水処理装置を運転できる。数年後には電気の自給自足によって二酸化炭素(CO2)排出ゼロの排水処理を実現する日がやってくる。

栗田工業が1月に微生物燃料電池の開発を発表すると、自社の工場で試したいという問い合わせが相次いだ。脱炭素に取り組む企業が関心を持ったためだ。同社ソリューションビジネス推進部の柳原茂生部長は「工場にとって利益を生まなかった排水処理で電気を作れるのは画期的」と強調する。

その微生物燃料電池は、排水中の有機物を分解すると電子を放出する発電微生物を利用する。放出した電子を電極で集めて取り出すと電気を作れる。“本家”の燃料電池に置き換えると、水素の代わりに有機物を含んだ排水で発電するイメージだ。

発電微生物は水素イオンと二酸化炭素(CO2)も出す。燃料電池と同様、水素イオンは電解質膜を通って移動し、酸素と反応して水となる。CO2は有機物を分解した処理水と一緒に排出される。

例えば売れ残ったビールやジュースの排水1リットルを処理すると50―100ワット時を発電できる。スマートフォンは5―10台を充電し、LED蛍光灯も2―3時間の点灯が可能だ。1日1トンの処理だと4―7世帯の電力を賄える。

発電微生物は1988年に米国の湖で見つかった。その後、下水汚泥や水田での生息も確認され、21世紀に入ると関連する論文数が増えた。栗田工業は2000年代後半に研究に着手したが、実用化は難しいと断念。電解質膜と触媒の劣化が速く、1カ月しか持たなかった。装置を大型化すると水や空気が行き渡らず、電子の動きが悪くなって発電が低下する課題もあった。

16、17年ごろに研究を再開した。本業の排水処理で培った微生物や膜、触媒の知見、さらに超純水を製造する電気脱イオンの技術を投入した。燃料電池の部材を製造する日清紡ホールディングスの協力も得た。当初のセルは100ミリ×50ミリメートルだった。1月の発表時は90倍の1000ミリ×450ミリメートルに大型化しても発電を維持できた。膜や触媒も1年以上の耐久性を確保し、実用化レベルに達した。

排水中の有機物(CODcr)1キログラムで300ワット―800ワット時の発電ができ、排水処理に必要な電気を賄える計算だ。有機物からメタンを合成するバイオマス発電が実用化されているが、栗田工業開発本部の小松和也主任研究員は「微生物燃料電池は将来的1キログラムの処理で2キロワット時を発電できる可能性があり、メタン発電の熱損失を考えると微生物燃料電池の方がエネルギー回収効率をアップできる」と語る。

栗田工業は実際の排水を使って実証し、数年後の実用化を目指す。柳原部長は「飲食店や環境教育など、考えていなかった用途があるかもしれない」と期待する。微生物燃料電池がCO2排出ゼロ達成手段に加わろうとしている。

日刊工業新聞2022年3月18日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
排水処理と発電を同時にできる一石二鳥の技術です。メカニズムが分かったというレベルではなく、設置場所があれば数年後には実用化できます。工場排水に限らず、ポータブルサイズなども出てきたらおもしろそうです。

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