家庭内で水循環できる技術を!ベンチャーが挑む『水道』改革
WOTAやフラクタ-収益改善に民間の力
水道事業のコスト構造を変えられるかもしれない技術がスタートアップ企業から生まれている。民間企業の水道事業参入をしやすくした改正水道法に対し、水質悪化や料金高騰を懸念する声も大きい。懸念を拭い去るには、大量の水消費がなければ成り立たない水道の事業構造自体を変えなければならない。人工知能(AI)などを使った課題解決が模索されている。
家庭で使った水をその場できれいにし、何度も繰り返し使って新しい水道ネットワークを構築―。水処理用ソフトウエアを開発するWOTA(東京都文京区)が見据える究極の姿は、“家庭単位での水循環”だ。
アイデアの基本は、センサーとAIで汚れ具合に応じた最適な条件で水を浄化することだ。あらゆる水に対して実現できれば、高価な水処理装置の寿命を延ばしてコストを引き下げられるほか、専門家のいない場所でも水を浄化できる。
とはいえ、シャワーやトイレ、台所などから出る水の汚れ具合はそれぞれ異なり、浄化の難しさも違う。同社はまず、汚れの種類がシンプルで処理しやすいシャワー水の循環から着手した。2016年の熊本地震など全国各地の避難所で試作機の実証実験を重ね、災害用シャワーパッケージとして発売した。
1度使った水の98%以上を再利用し、100リットルの水で、通常の50倍となる約100回のシャワー入浴ができる。同社共同創業者の山田諒プロダクトマネージャーは、「災害時は緊急性の低い入浴は後回しにされがちだが、(入浴できないことで)お年寄りをはじめ、大きなストレスの要因になる」と説明する。
取り組みは自治体からも注目されている。神奈川県とは18年11月に連携し、災害用シャワーパッケージの導入や水処理施設へのAI導入の可能性についての協議を始めた。
同社前田瑶介最高執行責任者(COO)は、「WOTAの技術は、大きな上下水道の効率化にも応用できる」と展望を語る。
下水処理施設は多様な汚れの混ざる家庭廃水を集中して処理する。台所やトイレから出る有機物の汚れは微生物処理が必要で、経験とノウハウを持つ担当者が天候や微生物の状態を見ながら管理している。これをセンサーとAIを使ったWOTAの技術で補完し、効率化する。すでに社内で微生物処理を最適化するAIの研究も進めている。「将来はクラウドサービスとして提供したい」(前田COO)考えだ。
完成すれば、IoT(モノのインターネット)技術と組み合わせて小さな浄化槽をいくつも制御する高度な水処理ができる。従来の集中処理から、小さな浄化槽を併用した分散型の上下水道への可能性が開けそうだ。そして、究極の“家庭単位での水循環”が実現すれば、砂漠地帯の1軒家など、水道インフラがない場所にも人が住めるようになる。
米フラクタが米国で展開するAIは、過去の配管破損や環境データをもとに、配管破裂を最少化できる更新順序を指南する。配管更新にかかる費用は非常に大きく、米国では今後30年で約110兆円が必要とされる。加藤崇最高経営責任者(CEO)は、同社の技術ならこれを「30―40%減らせる」と自信をみせる。
現在、米国の30以上の水道事業者がフラクタのAIを採用している。米国と日本の大きな違いは、水道管の破損の少ない日本に対し、米国は年約24万件の破損・漏水が発生している点だ。膨大な破損データがあるため、予測精度を高められる。
フラクタは18年5月に水処理大手の栗田工業から約40億円の出資を受け、栗田が過半の株式を取得した。これを機に、フラクタは日本での事業化を加速している。
最近は水道配管などを販売する日本鋳鉄管と、川崎市上下水道における水道管の劣化予測技術の検証に着手した。米国と日本では、天候や土壌をはじめ水道管の劣化に関係する条件が異なる。同市の水道管路情報や各種データを収集・分析することで、19年末までに日本版アルゴリズムの構築を目指す。
18年12月に成立した改正水道法のポイントは、運営権を民間企業に売却する「コンセッション(公共施設等運営権)方式」を導入しやすくしたことだ。
自治体が水道事業を行う認可を受けたまま、運営権だけを民間企業に売却することができるようになった。従来は自治体が事業認可を返上する必要があり、同方式の導入は難しかった。
民間から参入の動きが出てきており、前田建設工業と仏スエズは日本で水道事業のコンセッションに共同で取り組む覚書を結んだ。
法改正の背景には、水道事業の収支悪化がある。民間のノウハウを使って水道事業を効率化する狙いだ。
ただ、人口減少や節水機器の普及などにより、水道事業には水道水の使用量が大幅に減少していく構造的な問題がある。水を大量に消費し、その料金収入で成立する事業構造を変えなければ、公営でも民営でも、老朽化した上下水道のインフラ維持は難しい。
上下水道事業への最先端のICT導入は進んでいないため、AIやIoTを活用した業務効率化の余地は十分あり、事業構造を変革に貢献しそうだ。
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水を98%再利用できる災害用シャワー
家庭で使った水をその場できれいにし、何度も繰り返し使って新しい水道ネットワークを構築―。水処理用ソフトウエアを開発するWOTA(東京都文京区)が見据える究極の姿は、“家庭単位での水循環”だ。
アイデアの基本は、センサーとAIで汚れ具合に応じた最適な条件で水を浄化することだ。あらゆる水に対して実現できれば、高価な水処理装置の寿命を延ばしてコストを引き下げられるほか、専門家のいない場所でも水を浄化できる。
とはいえ、シャワーやトイレ、台所などから出る水の汚れ具合はそれぞれ異なり、浄化の難しさも違う。同社はまず、汚れの種類がシンプルで処理しやすいシャワー水の循環から着手した。2016年の熊本地震など全国各地の避難所で試作機の実証実験を重ね、災害用シャワーパッケージとして発売した。
1度使った水の98%以上を再利用し、100リットルの水で、通常の50倍となる約100回のシャワー入浴ができる。同社共同創業者の山田諒プロダクトマネージャーは、「災害時は緊急性の低い入浴は後回しにされがちだが、(入浴できないことで)お年寄りをはじめ、大きなストレスの要因になる」と説明する。
水処理施設の職員をAIが支援
取り組みは自治体からも注目されている。神奈川県とは18年11月に連携し、災害用シャワーパッケージの導入や水処理施設へのAI導入の可能性についての協議を始めた。
同社前田瑶介最高執行責任者(COO)は、「WOTAの技術は、大きな上下水道の効率化にも応用できる」と展望を語る。
下水処理施設は多様な汚れの混ざる家庭廃水を集中して処理する。台所やトイレから出る有機物の汚れは微生物処理が必要で、経験とノウハウを持つ担当者が天候や微生物の状態を見ながら管理している。これをセンサーとAIを使ったWOTAの技術で補完し、効率化する。すでに社内で微生物処理を最適化するAIの研究も進めている。「将来はクラウドサービスとして提供したい」(前田COO)考えだ。
完成すれば、IoT(モノのインターネット)技術と組み合わせて小さな浄化槽をいくつも制御する高度な水処理ができる。従来の集中処理から、小さな浄化槽を併用した分散型の上下水道への可能性が開けそうだ。そして、究極の“家庭単位での水循環”が実現すれば、砂漠地帯の1軒家など、水道インフラがない場所にも人が住めるようになる。
水道管の破裂をAIが予測
米フラクタが米国で展開するAIは、過去の配管破損や環境データをもとに、配管破裂を最少化できる更新順序を指南する。配管更新にかかる費用は非常に大きく、米国では今後30年で約110兆円が必要とされる。加藤崇最高経営責任者(CEO)は、同社の技術ならこれを「30―40%減らせる」と自信をみせる。
現在、米国の30以上の水道事業者がフラクタのAIを採用している。米国と日本の大きな違いは、水道管の破損の少ない日本に対し、米国は年約24万件の破損・漏水が発生している点だ。膨大な破損データがあるため、予測精度を高められる。
フラクタは18年5月に水処理大手の栗田工業から約40億円の出資を受け、栗田が過半の株式を取得した。これを機に、フラクタは日本での事業化を加速している。
最近は水道配管などを販売する日本鋳鉄管と、川崎市上下水道における水道管の劣化予測技術の検証に着手した。米国と日本では、天候や土壌をはじめ水道管の劣化に関係する条件が異なる。同市の水道管路情報や各種データを収集・分析することで、19年末までに日本版アルゴリズムの構築を目指す。
改正水道法とは?
18年12月に成立した改正水道法のポイントは、運営権を民間企業に売却する「コンセッション(公共施設等運営権)方式」を導入しやすくしたことだ。
自治体が水道事業を行う認可を受けたまま、運営権だけを民間企業に売却することができるようになった。従来は自治体が事業認可を返上する必要があり、同方式の導入は難しかった。
民間から参入の動きが出てきており、前田建設工業と仏スエズは日本で水道事業のコンセッションに共同で取り組む覚書を結んだ。
法改正の背景には、水道事業の収支悪化がある。民間のノウハウを使って水道事業を効率化する狙いだ。
ただ、人口減少や節水機器の普及などにより、水道事業には水道水の使用量が大幅に減少していく構造的な問題がある。水を大量に消費し、その料金収入で成立する事業構造を変えなければ、公営でも民営でも、老朽化した上下水道のインフラ維持は難しい。
上下水道事業への最先端のICT導入は進んでいないため、AIやIoTを活用した業務効率化の余地は十分あり、事業構造を変革に貢献しそうだ。
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日刊工業新聞2019年3月5日掲載