中央公論・筑摩書房・王子製紙など実現、文庫本「用紙」共通化の道筋
王子製紙は出版社と連携し、文庫本やコミックス向け用紙を共通化する。このほど中央公論新社など出版4社と「王子共通文庫用紙」を開発した。2022年内にも採用企業の数社拡大を目指す。人口減やデジタル化で紙媒体の需要が先細りする中、出版社は共通化で用紙の安定調達とコスト削減を図る。王子製紙は出版用紙の銘柄数を早期に半減し、春日井工場(愛知県春日井市)などの機械稼働率の向上、在庫リスクの削減につなげる。
文庫本には印刷用紙のうち中質紙が主に使われる。王子共通文庫用紙を採用したのは角川春樹事務所、河出書房新社、筑摩書房、中央公論新社。中央公論新社が2019年ごろに王子製紙に共通化を持ちかけ、各社との協議、試作、品質試験を重ね、2月以降の新刊で使用を始めた。
文庫本は需要が減少する出版物の中では共通化の余地が大きい。“出版社の顔”といわれ、各社は色味や厚み、手触り(平滑性)などが異なる独自の用紙で個性を出してきた。今回の共通用紙では色はクリームに近い白、厚みは各社の中間帯とした。
従来の独自用紙は、ヒット作が出ると一時的に調達しにくいリスクがあり、用紙の安定確保が課題だった。紙メーカーでは出版用紙の販売低迷から、膨大にある銘柄の統廃合、生産性向上が迫られていた。こうした中で関係者間で、どこまでオリジナル用紙の生産・販売を維持すべきか話し合いを続けてきた。
王子共通文庫用紙を4社が採用したことで王子製紙には複数の出版社から引き合いがあり、採用企業が近く増える見込み。コミックスを持つ出版社でも用紙共通化を検討する動きが強まりそうだ。
王子ホールディングス(HD)の磯野裕之取締役は、印刷用紙の需要は今後減少するとみて「供給過剰の設備を止めていかざるを得ない」との認識を示している。
日刊工業新聞2022年3月11日