欧米資源大手撤退で商社のロシア事業が立たされる“難局”
欧米の資源大手がロシアの権益から撤退を相次ぎ表明している。日本の総合商社も同国の原油・ガス事業に参画しており、難局に立たされている。日本はロシアと共同で水素やアンモニアなどの新エネルギー、二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)開発に取り組んでおり、中長期的なカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現も国際情勢の煽りを受ける可能性がある。(森下晃行)
米石油大手のエクソンモービルは1日、ロシアの原油ガス開発事業「サハリン1」から撤退すると発表。事業にはエクソンのほか、経済産業省や伊藤忠商事、丸紅などが出資するサハリン石油ガス開発(SODECO)も出資している。エクソンの発表を受け、SODECOは今後の方針を検討している。
英石油大手のシェルもロシアの原油ガス開発事業「サハリン2」から撤退を表明した。サハリン2は三井物産が12・5%、三菱商事も10%出資しており、三井物産と三菱商事は今後について政府や関係者と協議を進めていると説明する。
三井物産はサハリン2のほか、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と共同で液化天然ガス(LNG)事業の「アークティック2」も開発中だ。同事業については「事実関係を含め状況を精査している」(三井物産)という。
日本はLNG輸入量の約1割をロシアに依存している。電力・ガス会社が在庫を積み増しているため足元では影響が出ていないものの、先行きの不透明感が増している。
新エネ・CCS、日ロ共同開発 脱炭素実現に影
LNGは石油や石炭に比べCO2排出量が少なく、脱炭素移行時の重要資源として位置付けられる。また、より直接的に脱炭素と関連する事業として日本はロシアと共同で新エネやCCSの開発を進めてきた。経産省とロシア国営天然ガス独占企業のガスプロムは21年、水素やアンモニア、CCSなどに関する協力合意に署名した。今後は「情勢を見ながら個別に対応する」(経産省)という。
三井物産は2月、ガスプロム子会社とCCSの共同調査で合意したと発表。伊藤忠は東シベリアから日本へアンモニアのサプライチェーン(供給網)構築に向けイルクーツク石油と事業性調査を進めている。どちらもまだ調査の段階で事業化には至っていないが、三井物産・伊藤忠は情勢を注視し情報収集を急いでいる。
丸紅執行役員経済研究所長の今村卓氏は「(日ロの)プロジェクトがすぐに終了するのではなく、日本とロシアの関係、日本を含む西側諸国とロシアの関係の極端な変化を踏まえ、その認識をプロジェクト参加者が共有した上で、拡大や新規投資の計画は止める、現在稼働しているプロジェクトはさらに日本政府と参画企業・団体が日本の国益に照らして継続するか協議して判断を下すという展開になるのでは」と指摘。ただ、将来的に脱炭素戦略の見直しを迫られる可能性もあり「原子力発電に焦点が当たる可能性がある」(丸紅経済研究所の榎本裕洋所長代理)という見方がある。