KDDIが商用化、「5Gスタンドアローン」は放送・メディア業界を変えるか
KDDIは第5世代通信(5G)を4Gのコアネットワーク(基幹回線網)と組み合わせずに構成する「スタンドアローン(SA)」方式での通信サービスを法人向けに21日に始めた。通信ネットワークを仮想的に分割する「ネットワークスライシング」技術と組み合わせ、用途に応じてネットワークを個別に構成可能。超低遅延や大容量など最適な通信サービスが利用できる。製造現場や自動運転などでの利用を見込む。
従来は4G設備と組み合わせて構成しており、5Gの特徴のうち超高速、大容量しか実現できなかった。「5GSAにより各サービスに最適なネットワークを選択できるようになる。さまざまな利用シーンに通信が溶け込む時代が近づく」。21日のオンライン説明会で野口一宙5G・IoTサービス企画部長はこのように期待する。
利用シーンの一つとしてKDDIが有望視するのは放送・メディア業界向けの映像中継だ。第1弾として、アベマTV(東京都渋谷区)と共同で、放送スタジオで撮影した映像を5GSAを用いて動画配信サービス「アベマ」の番組内で生中継した。従来、事件現場やイベント会場など屋外からの映像中継は、人の多い場所でも映像伝送品質を保つため、専用機器を搭載した車両や通信回線、複数の携帯通信回線を束ねて配信するための専用機器などが必要だった。
5GSAとネットワークスライシングの利用で、通常のネットワークから配信用ネットワークを分離し、他の通信の影響を受けず安定的に大容量の映像を伝送できる。屋外からスマートフォン一つで低遅延に配信することも可能で、放送、動画配信事業者のコスト削減につながる。
5GSAは法人利用が中心になるとみられるが、個人向けには今夏以降に商用サービスを始める。利用には5GSA対応のスマートフォンが必要となる。
NTTドコモとソフトバンクも5GSAの商用サービスを始めている。野口部長は「通信だけでなく、ビジネスを支えるデジタル変革(DX)基盤を事業やサービスに最適化して提供したい」と述べた。