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「ジョブ型雇用」徹底解説。なぜ今必要なの?働き方は変わるの?

コーン・フェリー・ジャパン 柴田彰シニアクライアントパートナーに聞く

働き手の仕事を予め明確に規定して雇用する「ジョブ型雇用」の導入を模索する企業が相次いでいる。日立製作所や富士通、KDDIなどが導入を推進しており、民間の調査では、従業員300人以上の企業のうち過半数が「導入済み、もしくは導入を検討している」と回答した(下グラフ)。

一方、「新卒一括型採用」や「終身雇用」が根付く日本企業において、それを運用する難しさを指摘する声は多い。そこで、改めてジョブ型雇用とは何か、その本質や日本企業における導入のあり方、導入によって働き手に求められる変化などについて『ジョブ型人事制度の教科書』などの著作を持つコーン・フェリー・ジャパン(東京都千代田区)の柴田彰シニアクライアントパートナーに聞いた。(聞き手・葭本隆太)

グローバル市場戦うために

-ジョブ型雇用はどのような仕組みですか。
 企業の中にある仕事(ジョブ)に対して人を雇う仕組みです。営業課長や経営企画部長といったジョブ一つ一つが担う職責やその価値を明確にして、それに対して社員を雇用します。対比概念に「メンバーシップ型雇用」があります。これはジョブではなく、組織に雇用される形です。一般的な新卒一括採用で入社した社員が象徴ですが、入社後にどのようなジョブに就くかが不明確です。

-足元で人事制度をメンバーシップ型からジョブ型にシフトする日本企業が増えているのはなぜですか。
 背景にはグローバル市場で戦ったり、新しい事業を創出したりしなければ生き残れない危機感があります。その実現には、グローバルな人材やスペシャリストが必要で、そうした人材を迎え入れるには、海外の雇用市場の前提でかつ、雇う人の役割が明確なジョブ型が必要になります。

また、人件費のコスト効率を高めたい意識もあります。多くの企業ではバブル期に入社した中年世代が人件費高騰の要因になっています。年齢に応じて処遇してきたので当然です。(この現状について)仮に年齢が高いだけで高い報酬をもらっている人がいるとすれば、その分をしっかりした仕事をしている人に再分配したいと考えています。

-ジョブ型により企業は必要な人材を適切に配置できると。
 ジョブ型は「適所適材」を標榜する雇用です。「適材適所」ではありません。組織にとっては(戦略的に)必要なポストを定義し、そこに正しい人材を配置できるメリットがあります。

-働き手にメリットはありますか。
 仕事に見合った報酬が得られます。メンバーシップ型は若いうちは低い報酬で頑張り、年齢に応じて報酬が上がる後払いのイメージがあります。ジョブ型にこの発想はありません。もう一つは、働き手自身が「こういう仕事がしたい」といったキャリア意識があり、努力すればその仕事に就けることです。

-働き手にはキャリア意識が求められる仕組みということですね。
 それがないとジョブ型は成立しません。ただ、多くの企業ではメンバーシップ型や終身雇用の発想が残っています。自分のキャリアをまるっきり会社に預けている人は多いです。伝統的な大企業の社員ほど、目の前の仕事を頑張っていれば、会社がなんとかしてくれるという意識を持っています。このためジョブ型を導入する際には、社員に対してキャリア意識を醸成する取り組みが欠かせません。

-企業が社員のキャリア意識を醸成する方法はありますか。
 多くの企業が挑戦している最中で、万能な解はありません。いずれにしても、企業は社員に自分のキャリアを考えるよう伝え続けなければいけません。また、大きな会社ほど、社内にどのような仕事があるかが、社員には見えていません。違う部門に異動すると、担うべき仕事がまったく分からないというケースを、中堅・大企業でよく聞きます。そうした組織の中でキャリアを描けと言われても難しいでしょう。

そのため、企業は社内にあるキャリア機会を透明化しなければいけません。私が知るある企業は、各部門が仕事の内容やその面白さを社員にアピールする場を設けています。こうした取り組みは大事です。

コーン・フェリー・ジャパンの柴田彰シニアクライアントパートナー

-社員のキャリア意識の醸成を含めてジョブ型への移行に取り組む企業も出てきているのですね。
 ジョブ型に対する企業の理解は確実に深まっています。(2020年1月に経団連が導入を提言して)ジョブ型論争が盛り上がったときと今の状況は変わってきています。ブームとしてではなく、自社の課題を解決できるようにジョブ型を入れようと考えている企業が増えています。

一気に変えるのは非現実的

-日本企業の多くはメンバーシップ型の象徴である新卒一括採用の慣習があります。その中で、ジョブ型をどの範囲まで導入すべきでしょうか。
 各企業がそれぞれの最適解を模索しているのが実態で、一般解はありません。ただ、メンバーシップ型の組織について全体を一気にジョブ型に変えるのは非現実的です。ある領域まではジョブ型で、それ以外はメンバーシップ型と線引きしなければ運用できません。例えば、上位幹部ポストはジョブ型を取り入れ、社外にも目を向けてオープンに人材を探す運用を徹底し、若年層はメンバーシップ型のままといった形が考えられます。効果は薄いかもしれませんが、上位幹部ポストはジョブ型を徹底することで、若年層にも組織の考え方を伝えていくという形が現実解かもしれません。

一方、新卒市場でもデジタル分野などの仕事について、高い専門性を持つ学生をジョブ型で採用するケースが出てきています。そうした流れがデジタル以外の分野に今後広がる可能性はあるでしょう。

ただ、(新卒採用の必要性という点では)別の問題もあります。日本企業は組織の標準化が遅れていることです。「人事部長」というポストも企業ごとに細かい役割が異なり、個社依存性が強い特徴があります。つまり、社内で育てなければ、そうしたポストを担う人材が育たないということです。そう考えると、会社に適合性が高いゼネラリストの育成を志向した新卒一括採用は残るのではないでしょうか。

-逆に言えば、ジョブ型の効果を最大化するには組織の標準化が必要だと。
 日本企業におけるジョブ型雇用導入のボトルネックはそこです。我々は、欧米企業の人事コンサルも行いますが、彼らは標準化されています。だからこそ、企業間で人材が流動します。自前で人を育てるだけでなく、外から人材を迎え入れる発想に立ったときに一定の標準化は欠かせません。もちろん標準化しなくても(適所適材への)前進はできます。ただ、社外から適材を迎え入れにくい分、効果は社内最適にとどまります。

-日本企業においてジョブ型は今後さらに広がるでしょうか。
 グローバルで戦うためにはやはりジョブ型が必要で、少しずつ広がっていくでしょう。ただ、100%ジョブ型の世界を実現するには、一企業の努力だけでなく、国の労働政策や雇用環境が変わらなければいけません。例えば、日本は雇用の保証を是とした法制度を組んでいます。決してこれが悪いわけではありませんが、人材の流動性を妨げる要因にはなっています。100%ジョブ型の世界を目指すのであれば、障壁になります。また、学校教育の問題もあります。私自身もそうでしたが、多くの学生は新卒の就職活動時に会社名や業種などで就職先を考えます。そうした状況でジョブ型は成り立ちません。キャリア意識を植え付けるように学校教育を変える必要があります。

【略歴】柴田彰(しばた・あきら)/ 慶応義塾大学文学部卒、PwCコンサルティング(現IBM)、フライシュマンヒラードを経て現職。各業界において日本を代表する大企業を主なクライアントとし、組織・人事領域の幅広いプロジェクトを統括。 近年は特に、社員エンゲージメント、経営者のサクセッション、人材マネジメントのグローバル化、経営体制の変革に関するコンサルティング実績が豊富。著書に『エンゲージメント経営』『人材トランスフォーメーション』『ジョブ型人事制度の教科書』『経営戦略としての取締役・執行役員改革』、共著に『VUCA 変化の時代を生き抜く7つの条件』など。
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葭本隆太
葭本隆太 Yoshimoto Ryuta デジタルメディア局DX編集部 ニュースイッチ編集長
知っているようで知らない「ジョブ型雇用制度」の全容を組織・人事領域のコンサルティング実績が豊富なコーン・フェリー・ジャパンの柴田さんに解説していただきました。導入の成否のポイントとして、制度の作り込み以上に働き手や人事決定者の意識の変革を指摘していたのが印象的でした。

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