熱帯びる再エネビジネス。商社は「調整力」に相次ぎ参戦

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住友商事が鹿児島県薩摩川内市甑島に設置した大型蓄電システム。EV電池を再利用している

再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、総合商社がエネルギーマネジメントシステム(EMS)やバーチャルパワープラント(VPP)を活用したビジネスに乗り出している。蓄電池や独自プラットフォーム(基盤)を使い、出力が変動する再生エネの弱点を補う。政府は再生エネ由来の電力供給を増やすため、大型蓄電池の活用を促進する仕組みを設ける。再生エネの安定供給には必要に応じて充放電できる蓄電池が不可欠で、関連ビジネスをめぐる動きは熱を帯びている。(森下晃行、孝志勇輔)

電事法改正で好機

政府は今国会に電気事業法の改正案を提出し、系統用蓄電池の導入を拡大する。蓄電池を活用した事業などを展開する企業が送電網への接続を必要とする場合、送電会社に応じる義務を課す方針だ。再生エネの普及には蓄電池による補完が重要で、電力の安定供給につなげる。

現行法では火力発電所や再生エネの発電設備を送電網につなぐことを、送電会社に義務付けている。蓄電池も系統に接続しやすくするために発電事業に加えることにした。これにより蓄電池関連の事業を手がける企業は、電力需給が逼迫(ひっぱく)した際の供給や、参入・事業終了時の届け出を求められる見通しだ。

2021年秋に閣議決定した中長期のエネルギー政策「第6次エネルギー基本計画」では、30年度の電源構成比における再生エネ比率を36―38%に設定。19年度時点比で倍増する計算だ。ただ、太陽光や風力発電は気象条件で発電量が左右され、電力系統の需要と供給を一致させる「調整力」が必要となる。系統用蓄電池や電力使用量などを分析・管理するEMS、需要側の電力を制御するデマンドレスポンス(DR)の活用が見込まれる。

これを受けて総合商社は、24年度から開設が本格化する需給調整市場への参入を狙う。また、企業や家庭の脱炭素ニーズを捉えたエネルギーマネジメント(エネマネ)なども商機と見ている。

住商、蓄電システム整備

国内で太陽光や風力発電事業を展開する住友商事。エネマネについては鹿児島県薩摩川内市の甑島(こしきしま)で、系統と接続した蓄電システムを運営する。この知見を生かしながら「需給調整市場への参入を見据え、大型蓄電システムを立ち上げたい」とゼロエミッション・ソリューション事業部の藤田康弘部長は話す。

北海道や東北、九州などを候補地として24年度以降、数百メガワット級の蓄電システムを整備する計画だ。「需給調整市場は事業を立ち上げるきっかけ。その先には送電線の課題解決などさまざまなチャンスが広がっている」(藤田部長)と期待をかける。

三菱商事、家庭向けにも照準

三菱商事も子会社のMCリテールエナジー(東京都千代田区)が21年、需給調整市場へ参入すると発表。これまでも蓄電池を使ったVPPの実証に参画するなどしてきた。三菱商事電力ソリューショングループの岡部康彦本部長は「三菱商事グループ全体で電力を“作る・整える・届ける”事業を手がけ、再生エネのトータルパッケージを提供できるのが強み」と力を込める。

再生エネ利用を支援する家庭向けビジネスにも乗り出す。出資先の英OVOグループが開発したシステムを使い、電気自動車(EV)の充電タイミングを最適化するサービスの実証を今春に始める。

伊藤忠、最適な機資材提供

伊藤忠などはスーパーマーケットでEMSとEVを接続する実証を始めた

伊藤忠商事エネルギー・化学品カンパニーの村瀬博章部長は「現段階で需給調整市場へ直接的に参入する計画はない」と話す。まずは「家庭や企業など個々の需要家に分散型電源や蓄電池を普及させることが重要」との考えからだ。

伊藤忠は「太陽光発電から蓄電池まで(脱炭素に)必要なピースをそろえている」(村瀬部長)ため、状況に応じて最適なソリューションを提供できるという。例えば屋根置き型太陽光発電が利用できない顧客には、遠隔地で作った再生エネを届ける。また、家庭・産業向けの蓄電システムにも強みを持つ。同社の石井敬太社長は「開発から販売までハンズオンでやっているのは当社だけ」と自信をみせる。

1月にはスーパーマーケットのヤオコーでEMSとEVを接続する実証を始めた。分散型電源プラットフォームとEVをつなぎ、EVの余剰電力で店舗の電力消費の最大需要量を削減する「ピークカット」効果を高める狙いだ。

需要家のリソースを統合的に管理する事業者をアグリゲーターと呼ぶ。矢野経済研究所によると、国内のエネルギーリソースアグリゲーションビジネス(ERAB)市場は30年度までに19年度比16・5倍の730億円に拡大する見通しだ。今後もさまざまなプレーヤーの活躍に期待がかかる。

需給調整=短周期のインバランス解消

需給調整とは電力系統の需要と供給のバランスを取り、秒から分単位という短周期の需給のインバランス(不均衡)を解消すること。電力会社の送配電部門が需給バランスを合わせる役割を担っており、火力発電など発電側リソースを制御して整えている。

発電機などは出力の調整が可能で、電力需給が逼迫したときに電力会社の指令に従い調整できる容量を「調整力」と呼ぶ。求められる反応の速さで一次調整力から三次調整力まで分けられる。電力システムの規模によるが、一次・二次調整力自体で需要規模の10%程度の容量が必要となる。

インタビュー/電力中央研究所上席研究員・坂東茂氏

再生エネの導入拡大に伴い、需給調整力やEMSの必要性が高まっている。電力中央研究所の坂東茂上席研究員に展望や課題を聞いた。

―需給調整における課題は。

「これまでは需要の変動に供給側が合わせる形で需給バランスを整えてきた。一方、再生エネ導入が進むと供給側にも変動要素が増える。再生エネを導入した分火力発電の寄与は小さくなり、バランスを取るための調整力も減ってしまう」

「そのような状況下では蓄電池の充放電や消費する機器の側でDRを行うなど、調整力を供給できるリソースを増やす必要がある。電力系統に“柔軟性”を持たせることが重要だ。再生エネの地道な導入と制度の整備で、調整力をさまざまなリソースから調達可能にするべきだ」

―EMSの必要性をどう考えますか。

「大型の火力発電所でも分散された小規模のリソースでも、系統側から指令を受けつつ最適に運用するためには、制御・通信・計測を担うEMSが必須だ。システムのコストはリソースの規模によらない可能性が高く、リソースの小規模化が経済的なハードルを上げてしまうだろう」

―欧州では再生エネ導入が進んでいます。日本との違いは。

「日本は再生エネ発電の適地と需要地が離れている。欧州の北海には多くの風力発電所があるが、英国などの需要地に近く、水力資源の豊富な北欧に囲まれた立地だ。北海をまたぐ国際連系線の増設がもともと望まれている場所で、送電線の整備に支障は少ない。日本では適地の北海道や東北から大消費地(である都市圏)まで、風力専用の送電線の敷設が必要になる。物理的・経済的に難航が予想される」

日刊工業新聞 2022年1月31日

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