「eアクスル」開発過熱、EV時代へ日本電産・ボッシュなどが中国・欧州に熱視線
電気自動車(EV)の基幹部品であるモーターの開発や拡販競争が激しくなっている。特に「eアクスル」と呼ばれる、モーターと周辺部品を一体にした装置はEVの生産効率を向上でき、需要が急拡大すると見られる。本格的なEV時代の到来が目の前に迫る中、自動車や電機といった業種の垣根を越えて内外のメーカーが、eアクスルに商機を見いだす動きが広がっている。(日下宗大)
「万全な体制で臨んでいる」―。
日本電産の永守重信会長はこう強調して、eアクスル事業の拡大に自信を示す。同社は2021年10月、eアクスルの25年度の販売台数予測を直近公表値から70万台増の350万台に引き上げた。需要の高まりもあり、生産基盤を強化中だ。工作機械メーカーなどの買収を進めて、生産設備も内製化。垂直統合生産で価格競争力を高める。
eアクスルの需要は今後、急激に高まる見通し。調査会社の富士経済(東京都中央区)はeアクスルの35年の世界市場は19年比54・3倍の1250万台に成長すると予測する。
eアクスルはモーターとインバーター、減速機(ギア)の「三位一体機」で、自動車メーカーにはEVの開発・生産工数を減らせるなどの利点がある。独ボッシュの担当者は「モーター、インバーター、減速機の部分は我々が引き受けることで、中国の顧客に受け入れられた」と話す。
同社は20年に中国でeアクスルの量産を始めた。EV普及を柱とする新エネルギー車政策を推し進める中国では自動車メーカーが急な対応を迫られた。eアクスルを採用すればEVの投入時期を早められる。
ボッシュは11年頃から減速機メーカーと組んで、モーターと減速機を一体化して供給してきた。19年にはインバーターも一体になったeアクスルを市場投入した。
他の部品メーカーもeアクスル市場への参入を狙う。「上海で情報収集すると我々の想定以上に小型化になる」と話すのは明電舎の三井田健社長。
EV大国となった中国ではeアクスルへの軽薄短小や低コストといった要求が高まっている。同社ではeアクスルの開発期間が当初計画よりも延びたが、「なんとか22年度中には試作機を作り」(三井田社長)、23年度には市場投入したい考えだ。
中国工場では23年度にモーターとインバーター一体機の生産ラインが稼働予定で、開発と生産の両面で準備を進めている。28年度にはeアクスル事業で150億円規模の売上高を目指す。
日立アステモもeアクスルを開発中だ。相田圭一最高技術責任者(CTO)は「自動車メーカーにとってEVを製造する際に(設置面積を多く取る)電池のパッケージングは大きな課題だ」と指摘。その解決策の一つとしてeアクスルを挙げる。構成部品の性能を高めるのはもちろん、「自動車メーカーが作りたい車を作れるように、サイズや形状などを工夫してコンパクトなものを提供したい」と話す。
マレリ(さいたま市北区)は23年をめどにeアクスルの生産を開始する。25年には生産台数を100万台規模にしたい考えだ。
同社では20年にeアクスルの試作品を作った。ただ「量産や生産の準備もあり、単独では事業化が難しい」(担当者)と判断。ベルギーのギアメーカーと協業して本格参入する。
21年12月には具体的な社名は明らかにしなかったが、大手自動車メーカーからeアクスルを受注したと発表した。今回の受注分は24年に生産を始める。
【中国・欧州に熱視線】地産地消視野
eアクスルの拡販に向け各社が注力するのが、EV化が加速する中国と欧州だ。
日本電産は現在、浙江省など中国の工場でeアクスルを生産している。生産や開発拠点は中国を軸に、今後は地産地消を掲げて欧州や米州への拡張も狙う。「これからはEVは家電と同じように価格競争になる」(永守会長)として、適地生産でeアクスルのコストを抑える。
同じくeアクスルを中国で量産しているボッシュ。世界規模で「ハイブリッド車(HV)からEV、燃料電池車(FCV)まで全ての電動コンポーネントに対応している」(担当者)とし、eアクスルも「地産地消に対応できる」と自信を見せる。
マレリは欧州と中国市場をターゲットにする。23年をめどにフランスで、24年をめどに中国で量産を始める。中国では新工場も建設する予定で、現地企業と協業する方向だ。
明電舎はeアクスルの市場投入を見据えて、中国市場をメーンに現地工場や日本国内の工場の増強を検討する。eアクスルの市場動向を占う上でEV普及の基盤になる「バッテリー(電池)技術やバッテリーインフラも重要だ」と三井田社長は語る。
【主導権争い、節目は25年】電機・車部品/外資メガ、三つ巴
eアクスル市場の活況が予想される中、eアクスルの部品に熱い視線を向けるメーカーもある。従来はエンジン車向け部品を手がけていた企業にとっては、新しい収益源になると期待される。
アーレスティは24年にもeアクスル関連部品を手がける考えだ。eアクスルはモーター、インバーター、減速機が同一の筐体(きょうたい)に収められる。同社はeアクスルの筐体をアルミニウムダイカストで製造し、自動車メーカーやティア1(1次部品メーカー)への売り込みを狙う。主力のエンジン部品やトランスミッション部品で培った技術を応用する。
ただ他社も同様にeアクスル向け部品に注目していることから「価格競争が熾烈(しれつ)になっている」と高橋新一専務執行役員は話す。同社は主要自動車市場に拠点を置いており、価格のほか「どこからでも生産できて、品質や供給能力が高い」点も訴える。
KYBはeアクスル用油圧ポンプの開発に着手した。eアクスルの冷却や、駆動パワーを補助する装置で油圧ポンプの採用が増えると睨む。同社は自動車の無段変速機向けなどの油圧ポンプを手がけており、その知見を生かす。事業化時期は未定だが、「まずは国内でしっかりと立ち上げたい」(担当者)として、量産段階では岐阜県内の工場で生産すると見られる。
業界関係者の多くは「eアクスル市場への参入の節目は25年ごろ」と認識する。その部品を含めて拡大する市場で主導権を握るには、今後5年間が勝負となる。電機部品メーカー、自動車部品メーカー、外資メガサプライヤーの“三位一体”の競争が激化しそうだ。