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【ディープテックを追え】情報保護と利用を両立。秘密計算って何?

#44 Acompany

21世紀はまさにデータの世紀だ。あらゆる社会活動を駆動させる動力のように機能するデータは、さながら「石油」に見立てて表現される。実際、GAFAに代表される個人データから多大なる富を生み出す企業も生まれた。

ただ、個人データには常にプライバシーの問題がつきまとう。クッキーなどを使えば、ちりぢりの端材のようなデータをつなぎ合わせることで、容易に個人を作り上げることができる。今後の企業活動にとって、データの有効利用と保護を両立することは避けて通れない。

情報を秘匿にしたまま計算を行う「秘密計算」を使い、この課題の解決に挑むのがAcompany(アカンパニー、名古屋市中村区)だ。

秘密計算とは?

秘密計算でデータ分析した場合のイメージ

秘密計算はその名の通り、秘匿状態のデータのまま計算を行う方式のことだ。秘匿情報を分割し複数のサーバーを用いて計算を行う。その後、サーバーで出した答えを再度足し合わせることで結果を出力する。

最大の利点は個人情報など生データの秘匿を解除せずに計算ができること。現在よく使われる暗号化や匿名化では、データに処理をかける際、生データに戻す必要がある。

データ分析を目的に、このやりとりを複数の企業間で行う場合、参加する企業がお互いに生データを共有する必要があった。購買データ同士を掛け合わせれば、1社単独よりも精度の高い需要予測を行えるなどのメリットがある。一方、自社の競争力の源泉であるデータを他社にさらすジレンマも抱えている。また、データ流出した際のリスクなど情報保護の観点からの懸念もあった。

アカンパニーはこのジレンマに商機を見いだす。掛け合わせの分析データを必要とする企業から、それぞれ秘匿化した購買データを収集。秘密計算で計算した分析結果をフィードバックする。企業のジレンマを解消するだけでなく、個人情報を保護することにもつながる。

広告や病院経営に応用

高橋CEO(取材はオンラインで行った)

すでに広告領域では実証を開始している。博報堂DYホールディングス傘下のインターネット広告企業デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC、東京都渋谷区)と協力した。保有するマーケティングデータで秘密計算を使い、分析結果を得ることに成功した。これまでネット広告企業はウェブ閲覧ソフト(ブラウザー)を通じて、閲覧者を追跡できる「サードパーティー・クッキー」を使いネット上の消費者の動向を把握していた。ただ、米グーグルなどがサードパーティークッキーの運用の見直しを進める。これまでのように「ターゲティング(追跡型)広告」を打つことが難しくなる。自社や顧客の情報を運用できる秘密計算はこの状況を乗り越える手段の一つだ。他社のデータなどを組み合わせることも想定される。高橋亮祐最高経営責任者(CEO)は「データ利用のジレンマを解消しつつ、分析ができればデータの外販なども行える可能性がある」と話す。

また、名古屋大学医学部附属病院とも協力する。病院の経営情報という外部公開の難しい情報を秘密計算上で分析。経営最適化を目指す。高橋CEOは「スマホや自動車の位置情報、金融業界なども有望な領域」と業務拡大の機会をうかがう。今後はクラウド上で利用できるモジュールとして秘密計算を提供することも想定する。

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ニュースイッチオリジナル
小林健人
小林健人 KobayashiKento 経済部 記者
クッキー問題はアメリカでも非常に問題になっています。特にデータブローカーに代表される個人情報を媒介する企業は、無数の情報から個人を特定し、紐付けすることが可能です。それだけ容易に個人を特定できる状況なのですから、企業の自主規定ではなく、国による規制も必要かと思います。

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