【ディープテックを追え】電子回路を印刷。持続可能なモノづくりの実現へ
あらゆる電子機器に使われるフレキシブル基板。スマートフォンのほか家電などで幅広く使われ、半導体やコンデンサーなどを配置するベース部品だ。ただ、製造方法はロスも多く、環境への悪影響が指摘される。エレファンテック(東京都中央区)はこの製造方法を一新し、持続可能なモノづくりの実現に取り組む。
電子回路形成を印刷で代替
一般的にフレキシブル基板はフィルムの全面に金属膜をコーティングし、薬剤を使って不要な部分を取り除くことで電子回路を形成する。一方、この過程で出る金属や薬剤などの廃棄物や、大量の水を使う点が環境負荷の観点から大きな問題となっていた。
エレファンテックはプリンティング技術を使い、これまでとは全く違う製法の確立を目指す。インクジェットプリンターの要領で銀インクをフィルムに印刷し、銅めっきを施すことで電子回路を描く。
通常の電子回路であれば、1平方メートル当たり約1.8立方メートルの水が必要だったが、同社の製法では10分の1まで低減。不要な部分を取り除くといった工程も発生しないため、使用するエネルギーや廃棄物も抑えられる。30%のコストダウンも実現した。
清水信哉社長は「コストダウン以上に環境負荷の軽減こそ、重要なポイント」と強調する。製造業では大量生産を担保するため、製造を先進国から途上国へ移管してきた歴史がある。ただ、「これまでと変わらない製造方法を移管するのであれば、環境負荷を途上国に押し付けるだけだ」(清水社長)と指摘する。同社は環境負荷と生産効率というトレードオフの解消を目指す。
「死の谷」超えるための協業
4月からは株主でもある三井化学の名古屋工場に量産拠点「AMC名古屋」を稼働させた。月産能力は5000平方メートルで、2024年には2万平方メートルまで拡充する計画。三井化学からは量産に関するノウハウ、同じく株主のセイコーエプソンからはインクジェットに関する技術提供を受け、事業を推進している。
ベンチャー企業には量産化に苦戦する「死の谷」と呼ばれる時期があるが、大手企業のバックアップで「死の谷」を乗り越える構えだ。清水社長は「印刷という製法が量産でも使えることを証明する」と意気込む。すでに量産製品はモニター大手のEIZOに採用されており、「既存の製品と変わらないという声をもらっている」(清水社長)という。
ただ、技術的課題も残る。プリンティング製造では、どうしても金属インクの安定化が難しく、ブレが生じてしまう。家庭用プリンターでも使用中、ノズルにインクが詰まってしまう事象が起きるが、同じようにインクの状態を完全に制御することは難しい。例えばインクの状態や外部環境に左右されて、インクが吐出される場所も微妙にずれてしまう。
また、一般的にフィルムに金属インクを印刷すると、すぐにはがれてしまう。両者の間の密着度を高めることも必要だ。そのため、エレファンテックの製造方法には「装置、インク、製造方法」の三つのかけ合わせの最適解が必要不可欠だ。
装置販売も視野
22年1月には東京都江東区の新木場にR&Dセンターを稼働させる。装置開発だけでなく、現在、量産工場で使用する銀以外のインク材料開発まで総合的に手がける。ハイテク製品向けなど、より微細な製品の開発を目指す。
23年からは、製造装置の外販を計画する。量産工場の安定運営を通じ、製品の性能をアピールしながら拡販する。特に、技術に興味を示すのは電子回路大国の中国や台湾だ。日本よりも水資源の制約が大きい両国にとって、コストダウン以上に環境負荷の軽減は経営課題だ。30年に電子回路基板の10%を同社の装置で作ることを目標に掲げる。製品量産による技術の確立と、製造装置の拡販の両輪で持続可能なモノづくりを実現する。
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