「1兆円企業になれる」…新製法プリント基板を量産するスタートアップの実力

エレファンテックが挑む

清水社長(右)と杉本副社長らで創業した

「電子回路の世界需要は拡大している。イノベーションさえ起こせれば、自然と1兆円企業になれる」―。エレファンテック(東京都中央区)の清水信哉社長は中国・鵬鼎控股の時価総額1000億元(約1兆5000億円)突破を引き合いに、プリント基板製造のポテンシャルを説明する。(取材・小寺貴之)

エレファンテックはアディティブ・マニュファクチャリング(AM、付加製造)で電子回路を作るスタートアップだ。従来技術は配線を残すように銅箔を溶かして回路を作る。対して同社は線をひくように銅の厚膜を形成して回路を作る。配線のみを付け足す新手法は、配線以外を取り除く従来法に比べて、廃液などを13分の1に抑えられる。環境面に加え、コスト面でも優位性がある。杉本雅明副社長は「見積もりでは顧客の既存施設の3割減のコストを提案している」という。インクジェット技術と無電解メッキ技術を組み合わせて実現した。

大市場求めて

同社は2014年にインクジェットプリンターを利用した銀配線製造で起業した。3Dプリンターのように回路を作れる手軽さをウリに、製品試作や知育玩具などに提案した。だが「市場規模が足りなかった。より大きな市場を目指してピボット(市場探し)を繰り返した」と杉本副社長は振り返る。

16年に銀配線の上に無電解メッキで銅の厚膜を形成する技術を確立し、フレキシブルプリント基板の製造を始める。17年に約5億円を調達し、自社工場を立ち上げた。実績が認められ、セイコーエプソンや三井化学と提携した。三井化学とは基板生産能力が月間最大5万平方メートルの量産工場を構築する。日本国内の片面フレキ基板の生産量の約2割に当たるという。

製造技術のスタートアップは既存の大企業に囲まれて育つ。その道が険しいものになるかどうかは戦略次第だ。エレファンテックは大企業と連携し、インクジェットヘッド技術や材料技術、量産工場の運営ノウハウなどを取り込む。いずれも個々の要素は成熟し、生産ラインとしての統合を待っていた。このすり合わせをスタートアップが担う。

連続生産可能に

フレキ基板の受託生産で量産実績を作り、製造装置の設計販売につなげる。杉本副社長は「東京エレクトロンのような収益構造を作りたい」と話す。インクジェットで回路基板を生産できると、回路が切り替わっても量に関係なく同じラインで連続生産できるようになる。量産規模によるコスト勝負に陥った競争原理を覆せるかもしれない。

日刊工業新聞2019年10月24日

COMMENT

小寺貴之
編集局中小企業部
記者

 鵬鼎の数字を見ると、30年昔は製造業はベンチャーにチャンスのある産業だったのにと思います。いまベンチャーはITやサービスに流れていますが、モノづくりでも本質的な問題を解けばユニコーンになれるはずです。大規模な受託製造EMSが成立していない業界には妨げている要因があり、それを解けばチャンスがあるといえます。日本に拘らずに中国を食うような製造系ベンチャーが出てきてほしいです。システムインテグレーターが活躍している融合領域は、コスト面での規模の論理と規模を背景とした標準化、モジュール化圧力が上手く働いていない領域といえます。ここでブレイクスルーを起こせばEMSが育ったような成長が描けるはずです。日本のシニア人材と行き先のない金余り資金を投じれば、10年くらいで成功事例を作れるのではないかと思ってしまいます。それがなされないのは、モノづくりで勝負した先に大きな夢が描かれていなかったからですが、鵬鼎の数字を見ると夢が膨らみます。

関連する記事はこちら

特集