ビール醸造の熟練技術を伝承するキリンHDのAI活用法
キリンホールディングス(HD)はビールの生産や開発の過程で人工知能(AI)の活用を進めている。生産では、ビール醸造の重要工程である濾過計画のシステムを導入。新商品の開発では原材料の配合や工程などレシピ条件を設定すると、試作結果をAIが予測して提案するシステムを活用している。業務の効率化に加え、ビール醸造の工程で必要不可欠な経験値や熟練した技術をデータ化し、技術伝承の促進にもつなげている。
キリンHDは2020年にAIを活用した濾過計画システムを全国のビール工場に導入した。ビール製造における濾過工程は数十基のタンクと複数の濾過機を使い、発酵したビールから酵母を除去。濾過前の貯蔵タンクから濾過機で処理し製品タンクに移し替え、払い出したタンクを洗浄する。製造計画に合わせて、複数の液種を組み合わせて作業計画を立案するため業務負荷が大きい。
全国導入に先立ち19年、同システムを福岡工場(福岡県朝倉市)に試験導入した。基礎となる製造計画やタンクのサイズ・保管状況といったデータを入力すると、濾過処理するタンクの順番や使用する濾過機、保管するタンクの選択など最適な作業手順をAIが割り出し、可視化できるようにした。福岡工場では基礎データを入力するだけで最適な作業計画を出力できるようになり、最後に専任者が確認するだけになったため、業務は最短55分まで短縮。キリンHDでは人手で1回約6・5時間かかる業務を30分ほどに軽減する目標を設定している。
商品開発では17年にビール新商品開発支援システム「醸造匠AI」を導入。三菱総合研究所と共同開発し、原材料の配合や工程などレシピ条件を設定すると試作結果をAIが予測して提案する。
すでに現場で運用しているものの、レシピの着想には個人差があり、技術者の経験値などが求められることから、技術者によって現場での活用の度合いに差が生じていた。このため8月に味の目標値を入力するとレシピの候補を提示する「レシピ探索機能」を追加。新機能により、経験の浅い技術者も熟練技術者と同様にレシピ候補をもれなく洗い出すことができるようになった。
キリンHDではいずれのシステムもデータを蓄積していくことで、ビール製造に不可欠な熟練の技をAIに仕込む。ビール製造のさまざまな工程でAIを活用し、開発、生産、販売の効率化、高度化を目指す。(高屋優理)