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脱炭素がもたらす需給の歪み、石油開発の停滞で景気減速の懸念

相場への上昇圧力続く

原油は中長期的にも需給がタイトとなり、相場には上昇圧力がかかりそうだ。当面は新興国の経済成長などもあって需要は減らないが、金融機関や機関投資家からの脱炭素要求の高まりで、足元では欧米メジャーが石油の上流開発を縮小している。2022年は中東産油国などの段階的増産で需給の緩和が見込まれ、暖房需要が増す今冬を過ぎれば相場に調整が入り得るが、再来する原油高などへの対応が引き続き課題となる。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、石油・ガス田への21年の世界投資額は14年比で約5割減となり、微増する再生可能エネルギーへの投資額を2年連続で下回る見込みだ。

世界各国が表明済みの脱炭素政策を反映したIEA予測では、30年代半ばに石油消費がピークアウトを迎える見通しで、供給が先行して減少し、需給がタイトになる可能性がある。

楽天証券の吉田哲コモディティアナリストは、「脱炭素は息の長いテーマであって、当面は石油の上流開発投資の縮小で需給が引き締まりやすく、原油相場への上昇圧力は続く」と指摘する。

原油高に見舞われやすい環境では、生産コストの増加を通じて製造業などの収益が下押しされ、成長分野に投じる事業資金も損なわれかねない。

再生エネ事業にも取り組む出光興産の木藤俊一社長は11月上旬の決算会見で、化石燃料の高騰による景気減速に懸念を示した上で、「脱炭素には大きなイノベーションと時間が必要で、その間を(石油など)現存のエネルギー供給でしっかり支えることが重要だ」と述べた。

当面は電気自動車(EV)などに使う銅の需要増大も含め、脱炭素がもたらす需給の歪みが資源価格の押し上げ材料となる可能性がある。日本においては、上流権益の確保や調達先の多様化、サプライチェーン(供給網)の連携による原材料の調達コストの低減など、資源高への対策強化が求められそうだ。

日刊工業新聞2021年11月19日

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