減産でも原油安が止まらない。「石油の時代」はこのまま終焉する?
エネルギー大手、長期的な「需要ピーク」を見据えた準備も始める
石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC主要産油国が5月末に協調減産の延長で合意したにもかかわらず、原油価格が下がり続けている。国際指標である米国産標準油種(WTI)価格は6月21日には42・53ドルと約10カ月ぶりの安値をつけた。背景には米国のシェールオイルの増産やOPECの存在感の低下がある。原油市場を取り巻く環境が変わる中、エネルギー大手は長期的な「石油需要のピーク」を見据えた準備も始めている。
原油価格の下落の背景の原因のひとつは、OPECの減産対象除外国の生産増にある。減産対象11カ国の5月の日量は、2016年10月比113万バレル減の2984万バレルで減産厳守率は97%に達する。
だが、政情不安定などの理由で減産対象から外されているリビアとナイジェリアの産油量が2カ国計で同30万バレル増とOPEC全体での減産効果を薄めている。
二つめの原油安の理由が、あらゆる国際的な減産合意とは無縁な米国のシェールオイルの増産だ。米国の足元の原油生産量は約2年ぶりの高い水準にある。
米国の原油生産の半分程度がシェールオイルだが、掘削コストがかさむのが課題だった。最近は、技術革新で新規開発の際の採算コストを従来の1バレル当たり50ドル程度から、同40ドル前後まで下げられる業者も出てきている。
米調査会社が公表した6月2日時点の石油掘削機(リグ)数は22週連続増加の747基で過去2年間で最高水準にある。
最近は米エクソンモービルのような石油メジャーもシェールへの投資を強化している。「彼らは価格が下落してもシェールへの投資を継続する。これまで見られたような価格下落による生産の停止や減産は起きにくくなる」と石油元売り関係者はみる。
OPECにしてみれば、さらなる減産で価格の上昇を試みたところで、損益分岐点が下がったシェールオイルの増産を後押しすることになりかねない。
こうしたシェールオイルの生産状況もあり、市場は中長期では供給過剰になるのではとの見方が支配的で、原油の上値を抑えこんでいる。
国際エネルギー機関(IEA)が6月14日に発表した月報では、17年の後半には供給量が需要を下回るものの、米国などの増産が続き、18年には再び供給過剰になると予測している。
IEAが18年の需給予測を公表するのは初めて。需給の緩みが指摘されたことで、上値を意識する展開になっている。
OPECが協調減産したところで、シェールオイルが増産されれば、OPECが望むような価格の安定は実現しにくくなっている。OPECの市場での存在感が以前より低下していることの証左だろう。
同時に、地政学リスクが原油市場に及ぼす影響も小さくなっている。原油価格には地政学リスクが大きく影響してきた歴史があるが、サウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトの4カ国とカタールの断交の影響は現時点ではほぼ見受けられない。
石油連盟の木村康会長は6月26日、都内で定例会見を開き、最近の原油価格の動向について「地政学リスクがあるにもかかわらず、油価がここまで下落することに多少の驚きがある」と語った。政治的な関係とビジネスは「別のもの」との認識を示している。
2000年にエクソンモービルの伝説的な経営者であるリー・レイモンド最高経営責任者(CEO)は最新の長期予測の報告をみて「1980年には何と言っていた」と部下に投げかけたという。
分析の結果、エネルギー消費量見通しはわずか1%の誤差だったが、価格予測は大きく外れていた。レイモンドCEOはその後、価格予測を経営計画に用いることを止めた。
技術革新などの変数が大きく、今後も長期での価格予想は難しいだろう。一方、エネルギー需要は世界的な人口増を受け、伸び続けることは確実だ。問題は石油の時代は終焉(しゅうえん)するかという古くて新しいテーマだ。
大きな流れが「脱石油」の傾向にあるのは間違いない。1バレル当たり3ドル程度だった油価は跳ね上がり一時的に同40ドルを超えた。これが先進国が脱石油を掲げ始めるきっかけとなった。
日本国内でみても、第1次オイルショックが起きた73年度には、1次エネルギーに占める石油の割合は7割を超えていたが、2010年度には4割を割り込んだ。
東日本大震災に伴う原子力発電所の稼働停止でその後は、上昇傾向にあるが、大幅に増えるシナリオは描きにくい。
石油メジャーも石油需要のピークを見据えているが、予想にバラつきはある。16年に、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルの幹部が決算会見の場で「石油需要は5年から15年の間に、ピークを迎えるかも知れない」と語り、物議を醸した。
一方、エクソンは石油消費量は40年まで増加し続けると予想する。IEAも最も可能性の高いケースとして今後数十年間は石油使用量が増加すると指摘している。
(文=栗下直也)
原油価格の下落の背景の原因のひとつは、OPECの減産対象除外国の生産増にある。減産対象11カ国の5月の日量は、2016年10月比113万バレル減の2984万バレルで減産厳守率は97%に達する。
だが、政情不安定などの理由で減産対象から外されているリビアとナイジェリアの産油量が2カ国計で同30万バレル増とOPEC全体での減産効果を薄めている。
二つめの原油安の理由が、あらゆる国際的な減産合意とは無縁な米国のシェールオイルの増産だ。米国の足元の原油生産量は約2年ぶりの高い水準にある。
米国の原油生産の半分程度がシェールオイルだが、掘削コストがかさむのが課題だった。最近は、技術革新で新規開発の際の採算コストを従来の1バレル当たり50ドル程度から、同40ドル前後まで下げられる業者も出てきている。
米調査会社が公表した6月2日時点の石油掘削機(リグ)数は22週連続増加の747基で過去2年間で最高水準にある。
石油メジャーもシェールへの投資を強化
最近は米エクソンモービルのような石油メジャーもシェールへの投資を強化している。「彼らは価格が下落してもシェールへの投資を継続する。これまで見られたような価格下落による生産の停止や減産は起きにくくなる」と石油元売り関係者はみる。
OPECにしてみれば、さらなる減産で価格の上昇を試みたところで、損益分岐点が下がったシェールオイルの増産を後押しすることになりかねない。
こうしたシェールオイルの生産状況もあり、市場は中長期では供給過剰になるのではとの見方が支配的で、原油の上値を抑えこんでいる。
国際エネルギー機関(IEA)が6月14日に発表した月報では、17年の後半には供給量が需要を下回るものの、米国などの増産が続き、18年には再び供給過剰になると予測している。
IEAが18年の需給予測を公表するのは初めて。需給の緩みが指摘されたことで、上値を意識する展開になっている。
価格安定難しく
OPECが協調減産したところで、シェールオイルが増産されれば、OPECが望むような価格の安定は実現しにくくなっている。OPECの市場での存在感が以前より低下していることの証左だろう。
同時に、地政学リスクが原油市場に及ぼす影響も小さくなっている。原油価格には地政学リスクが大きく影響してきた歴史があるが、サウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトの4カ国とカタールの断交の影響は現時点ではほぼ見受けられない。
石油連盟の木村康会長は6月26日、都内で定例会見を開き、最近の原油価格の動向について「地政学リスクがあるにもかかわらず、油価がここまで下落することに多少の驚きがある」と語った。政治的な関係とビジネスは「別のもの」との認識を示している。
伸び続けるエネ需要、「代替」の研究・育成急ぐ
2000年にエクソンモービルの伝説的な経営者であるリー・レイモンド最高経営責任者(CEO)は最新の長期予測の報告をみて「1980年には何と言っていた」と部下に投げかけたという。
分析の結果、エネルギー消費量見通しはわずか1%の誤差だったが、価格予測は大きく外れていた。レイモンドCEOはその後、価格予測を経営計画に用いることを止めた。
技術革新などの変数が大きく、今後も長期での価格予想は難しいだろう。一方、エネルギー需要は世界的な人口増を受け、伸び続けることは確実だ。問題は石油の時代は終焉(しゅうえん)するかという古くて新しいテーマだ。
予想バラつき
大きな流れが「脱石油」の傾向にあるのは間違いない。1バレル当たり3ドル程度だった油価は跳ね上がり一時的に同40ドルを超えた。これが先進国が脱石油を掲げ始めるきっかけとなった。
日本国内でみても、第1次オイルショックが起きた73年度には、1次エネルギーに占める石油の割合は7割を超えていたが、2010年度には4割を割り込んだ。
東日本大震災に伴う原子力発電所の稼働停止でその後は、上昇傾向にあるが、大幅に増えるシナリオは描きにくい。
石油メジャーも石油需要のピークを見据えているが、予想にバラつきはある。16年に、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルの幹部が決算会見の場で「石油需要は5年から15年の間に、ピークを迎えるかも知れない」と語り、物議を醸した。
一方、エクソンは石油消費量は40年まで増加し続けると予想する。IEAも最も可能性の高いケースとして今後数十年間は石油使用量が増加すると指摘している。
(文=栗下直也)
日刊工業新聞2017年7月4日「深層断面」