新型コロナ危機が「石油の時代」を延命させる?
石油の時代は終わるのか―この古くて新しい論争に終止符が打たれようとしている。石油大手が再生可能エネルギーへのシフトを敷いたり、中国政府が2035年に新車販売でのガソリン車の全廃を掲げたり、「石油の終焉の日」を感じさせる要素は揃いつつある。一方、新型コロナウイルスがもたらした歴史的な原油安が石油の時代を延命させることになるとの指摘もある。
9月、英国の石油メジャーであるBPの年次報告書が産業界をざわつかせた。「石油の時代の終焉」ととられかねない内容が掲載されていたからだ。同報告書では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済活動の停滞により激減した石油消費量が、今後もコロナ以前の水準には戻らない可能性を指摘。業界にとって最善のシナリオでも20年後の石油需要はほぼ横ばいで、2050年までに化石燃料の消費が80%減のシナリオも描かれている。すでにBPは今後10年で石油や天然ガスの生産を4割減らし、再生可能エネルギーへの大型投資を打ち出しているとはいえ、自社の「米びつ」が尽きかねないと公言したことへの反響は大きかった。
なぜなら、こうした見方は石油業界ではまだ珍しいからだ。BPのシナリオは業界ではあくまでも異端だ。欧州や日本では化石燃料への逆風は強いが、世界全体から見れば、石油需要は中間層が拡大する新興国を中心に今後数十年は堅調との見方が支配的だ。
そして、今、コロナ危機は追い風になるとの見方すら浮上している。石油業界に詳しい金融機関幹部は「コロナ危機による原油安は石油の時代を延命することになるかもしれない」と語る。
コロナ危機は歴史的な原油安をもたらしたことは記憶に新しいだろう。経済活動がストップしたことで原油需要が激減。2020年4月20日にはニューヨークの原油先物価格が一時、マイナスを記録した。現在は、経済活動の再開と産油国の協調減産の継続で1バレル40ドル前後で推移している。ただ、これは2019年平均の1バレル57ドルから2割程度安値圏にある。
IEAによると石油需要の絶対量は、2020年の減少幅が大きいため2021年中の回復は難しく2022年以降になる見通しだ。ただ、需給のバランスは、逼迫する。産油国の減産の継続で需要超過になり、積み上がった在庫が解消される見通しだ。
みすほ銀行のレポートでは、原油価格は2021年後半に上昇基調になり、2021年の先物価格は1バレル平均43ドルと予測される。2025年に向かって上昇し、同年には同59ドルとコロナ以前の水準にようやく戻る見通しだ。
産油国にとっては原油安は頭が痛い問題だが、ユーザーにとっては原油安は経済的に恩恵は大きい。経済的な先行きや企業業績が不透明なこともあり、経済合理性から、再生エネや電気自動車の開発投資が遅れる可能性も出てくる。
もちろん、大きな時間軸で見た場合、「脱化石燃料」の流れは変わらない。原油安がもたらす需要増も、誤差の範囲に過ぎないだろう。そして、再生エネの技術革新は日進月歩だ。こうした誤差すら飲み込み、石油の時代に一気に別れを告げるかもしれない。