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ニッケル・銅・レアアース…非鉄市場で調達リスク拡大、中国の存在感に警戒

非鉄金属原料の市場で調達リスク拡大の足音が近づいている。電気自動車(EV)の電池材に使うニッケルの取引所在庫が急速に取り崩されているほか、再生可能エネルギーのインフラにも使う銅の産地ペルーでは鉱山国有化で利権確保を狙う動きがある。脱炭素化に向けた資源争奪の激化が想定される中、重要鉱物の精製工程が集中する中国が一段と存在感を高める可能性もあり、供給網の再構築が急務となっている。

非鉄先物取引の中心となるロンドン金属取引所(LME)では、積み上がったニッケル在庫が4月から7月上旬にかけて約14%減少し、約1年5カ月ぶりの水準まで低下した。中国や欧州のEV販売増加を背景にリチウムイオン電池需要が堅調で、正極材などの原料となる高純度品の「ニッケルブリケット」の引き出しが加速した。

当面は、相対取引で賄い切れないブリケットを取引所で調達する動きが続きそうだ。世界景気の復調でニッケル相場は高値にあるが「足元の1万8000ドル水準では電池向けニッケルの新規生産計画は起きにくく、数年かけて取引所在庫が消費されていく」(住友金属鉱山の丹羽祐輔ニッケル営業・原料部長)見通し。供給力の追い上げが焦点となる。

5月に史上最高値をつけた銅には、産出国が関与を強めようとしている。チリでは相場連動型の鉱業増税の国会審議が進んでいるほか、6月のペルー大統領選では鉱山国有化を掲げるカスティジョ氏が過半数を獲得し、供給懸念がくすぶる。

EVのモーター磁石のほか誘導ミサイルなど軍事品にも使うレアアースでは、精製品シェアで約9割を握る中国が輸出統制を強める恐れがある。台湾情勢で中国と主要国間の緊張が高まれば、「中国が軍民両用品に(輸出を許可制とする)輸出管理法を適用する可能性がある」(大和総研の斎藤尚登主席研究員)など、地政学リスクが隣り合わせだ。

国際エネルギー機関(IEA)は5月公表のリポートで、2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにするにはリチウムなど重要鉱物が40年時点で現行の6倍必要と指摘。レアアース以外でもニッケルなどで精製品生産の35%以上が中国に集中するリスクに警鐘を鳴らしたほか、資源開発の促進を求めた。

日本では菅義偉首相が新車販売全てを35年までに電動車とする目標を表明。詰めの作業を残す中「EV1台当たりの電池部材はハイブリッド車(HV)比で70倍から100倍必要。目標値のEV比率がないと必要な材料規模が見えない」(電池サプライチェーン協議会の阿部功会長)とされ、資源開発などへの投資拡大にはコスト制約なども踏まえた実現性のあるEV目標の提示が求められている。

政府は重要鉱物の供給網の強靱(きょうじん)化に向け欧米などと協議を重ねているが、資源ごとの需給の見極めや調達先の多様化など課題は多い。代替材の開発やリサイクルも含め真に持続性のある経済を追及するため、官民の一層の連携強化が必要となる。

日刊工業新聞2021年7月16日

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