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「地銀のトップは交響楽団の指揮者に似ている」(西日本FH会長)

西日本フィナンシャルホールディングス(FH)の久保田勇夫会長は、深く知るクラシックの世界に地銀経営をなぞらえる。引用するのは、指揮者シャルル・デュトワの「現在の技術の下で全体としての最大の効果を」との言葉だ。各員の技量を高めることは必要だが、全員がトップクラスでなくとも良い演奏はできる。

「与えられた演奏者で、全体としてどんなに素晴らしい演奏にするか。経営者も同じで、多様な特性や力量を備える行員の個性を引き出し、それらを上手に組み合わせて最大の結果を出すことが役割だ。つまり、組織を動かすとは人を動かすこと。人を知らなければならない」

組織をいかに動かすかは30年以上に及んだ霞が関での官僚人生で学んだ。大蔵省(現財務省)入省後、28歳での税務署長を振り出しに、国際金融局次長や関税局長、国土事務次官など要職を務めた。著書にもある「役人道」は、組織運営のプロフェッショナルとしての道でもあった。

「官僚は一度の失敗も許されない。政治の流れ弾で責なく『けが』をすることもある。その点で地銀を含め、民間企業の経営者は気が楽な部分もある」

故郷・福岡で西日本シティ銀行頭取に就いたのは2006年。西日本・福岡シティ両行の合併から2年目だった。今や“対等合併の成功例”とも評されるが「戦法が異なる早稲田大学と明治大学のラグビー部が一つになったようなもの」で、行内融和が求められた。全員がしっかりと職務を果たし、派閥争いのようなことはなかったが「互いを知ろうとしていなかった」と振り返る。

そこで、役員が肩を並べて昼食を取る食事室を設けて雑談を促すことから始めた。また旧2行のOB会廃止も断行し、完全に一本化した。一気通貫の融和策を通じて、異質なものが融合して生まれた新銀行のカルチャーは現在につながる強みになった。

地銀の経営は競合行だけでなく、政策にも国際的な金融の動きにも大きく左右される。

「ライオンは集団の末端にいるシマウマから捕らえる。不確実性の高い時代にどの方向にも進めるようにあらゆる指標で先頭集団にいなければならない」

止まることのできない競争の中、合併15年を超えて成熟した強みを力に業界を走り続ける。経営のタクトを握る手はいまも力強い。(西部・三苫能徳)

【略歴】
くぼた・いさお 66年(昭41)東大法卒、同年大蔵省(現財務省)入省。94年国際金融局次長、95年関税局長、99年国土事務次官。06年西日本シティ銀行頭取、14年会長、16年西日本FH会長。福岡県出身、78歳。

日刊工業新聞2021年10月26日

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