川崎重工会長の経営哲学を生んだ海外でのカルチャーショック

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入社以降、鉄道車両事業に長く携わり、米国と英国に合わせて20年駐在して日本との違いを目の当たりにした。海外では社員の誰もが会議で積極的に意見を出し合い、自分を磨くことを意識して働く姿にカルチャーショックを受け「社員の声を聞くとともに、効率よく働く職場」づくりを目指してきた。

自ら社内の参加交流型サイト(SNS)を発案し、2018年度に本格導入した。「当初は炎上を懸念して反対された」というが、今ではカンパニー間での技術情報の共有に役立っている。

特に意識したのが若い社員との交流だ。社員に望むことを聞くと、会社の方向性や役割を知りたがっていた。“社会に貢献する会社”を打ち出すことで、彼らと会社のパーパス(目的)を一致させることができた。

「若手の意見を情報として仕入れることも必要で、社員の考えに幅広く耳を傾ける。社員が意見を出しやすくするためには、組織をフラットにすることが大切だ。そして、さまざまなやりとりを通じて、社員の能力がかけ合わされ、新たな成果に結びつく“創発”を生むことが経営者の果たすべき役割だ」

仕事への思い入れは人一倍熱いが、経営判断の際には、できるだけ理論的に考えることを意識する。

「頭に浮かべるのは業績に寄与するまでにかかる時間、社会貢献や社員に対する効果の度合い、実現へのハードルの三つの軸だ。簡単ではないが、これら三つの軸に基づいて“3次元”で判断する」

だからこそ、「コングロマリット・ディスカウント」の指摘を受け、投資家から過度な選択と集中を求められても経営判断がぶれることはない。

「大きな利益貢献はなくても、社会に役立つ事業を止めることはない。鉄道車両のような社会の公器としての事業はしっかりと続ける」

若いときには目立ちたがりの一面があり、それを心配したかつての上司からかけられた老子の言葉「善く行く者は轍迹(てっせき)なし」を今でも胸に刻む。善行をしても誇示せず、迹を残さないことこそ無為自然の生き方という教えだ。

「仕事を一人で全てこなすことはできない。周囲をもり立てながら取り組み、うまくいった際には自らは陰に引いて、皆の手柄にする。そうしてこそ仕事はうまくいく」

現在は川崎重工業の会長として、また関西経済連合会の副会長として周囲をもり立てている。(孝志勇輔)

【略歴】
かねはな・よしのり 76年(昭51)阪大基礎工卒、同年川崎重工業入社。08年車両カンパニー車両ビジネスセンター長兼プロジェクト本部長、09年執行役員、12年常務、16年社長、20年会長。兵庫県出身、67歳。

日刊工業新聞2021年10月5日

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川崎重工業

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