住友商事会長が語る、持続可能な事業の原体験

中村邦晴氏

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1980年代から90年代にかけてプエルトリコに2回駐在した。出向先はいずれもマツダ車の販売会社で2度目は社長を務めた。円高が急速に進んだ当時、値上げが避けられない情勢だった。非常に厳しいビジネスだったが「一緒に仕事ができて幸せだった」と、帰国時にたくさんの人が声をかけてくれた。「仕事を通じていろいろな人を幸せにできるのでは」と考えるようになった。

15年後、住友商事の社長就任を機に、住友グループが長期にわたって事業を存続できた背景をあらためて調べた。そこで目に留まったのが「自利利他公私一如(じりりたこうしいちにょ)」だ。事業は国家や社会を利するものではなくてはならないという住友グループの事業精神だ。プエルトリコの体験と重なった。

「自分だけでなく、さまざまな人のために会社が存続する意義がある。そのためには会社自身がサステナブル(持続可能)でないといけない」

2度目のプエルトリコ駐在の前は日本国内で伊フィアット車の輸入総代理店に出向した。ここでの経験も後の経営スタイルに影響を及ぼす。

当時、営業ナンバー2として約40人の従業員を率いていたが、フィアット本社が自前で販売網を構築する方針を掲げ、会社は清算の憂き目に遭う。

従業員の再就職を支援した。面倒見は良い。プエルトリコに赴任してからも帰国するたびに当時の部下に会って近況を聞いた。そのうち再就職した会社を辞めて輸入車業に戻る人が出てきた。聞くと「やはり輸入車がやりたい」という。「彼らに(再就職先という)食いぶちを与えたかもしれないが、夢を奪ってしまったのか」。自責の念に駆られた。

「夢がなければ仕事はできない。人が仕事を作り、仕事が夢を大きくし、夢が人を育てる。こんな良い循環があるはずだ」

社長に就いてから「自利利他」の精神や夢を持つことの大切さを従業員に伝えてきた。「事業を通していかに社会に貢献するかが従業員の間で芽生えた」一方で、在任中には16年ぶりの当期赤字という苦境もあった。

「日々の経営で短期的にどう判断するかということと、底流にある事業精神や考え方は根本が違う。業績でつまずいたことはいけないことだが、目先のことで大きな流れを変えてはいけない」

あくまで地に足をつけた中長期の持続可能性を見据える。(編集委員・池田勝敏)

【略歴】なかむら・くにはる 74年(昭49)阪大経済卒、同年住友商事入社。05年執行役員、07年常務執行役員、09年専務執行役員、12年副社長、同年社長、18年会長。19年経団連副会長。大阪府出身、71歳。

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