会社の近くに住む必要がなくなる?「社宅」のこれから
テレワークの普及により、職場にアクセスのよい場所に住む必要性が薄れたり、好きな場所で仕事をしたいというニーズが高まっている。これを受け、企業側も社宅の運用や住宅補助の見直しを図るケースが増えている。住居という生活の基盤を支える福利厚生の充足は、従業員の満足度向上や人材定着にもつながる。(取材・昆梓紗)
中小企業ではハードルが高い制度
「大企業と中小企業の福利厚生の差は、人材採用のネックの1つになっている」―freee新規事業推進室の水野谷将吾氏は話す。この格差解消をサポートすべく、freeeはこれまで中小企業での導入ハードルが高かった借上げ社宅制度の運用をサポートする「freee福利厚生 借上げ社宅運営サービス」を2020年に開始した。
借上げ社宅制度は従業員自ら住む場所を選び、企業が借り上げ、その半額を基本給から減額し、残りを天引きする仕組み。所得税や住民税の節税につながる。大企業では78.2%が導入している一方、100人以下の企業だと29.9%しか導入されていない。(※1)
その背景には、制度設計の複雑さや運用の煩雑さがある。「大手では代行業者に頼む例が多いが、中小企業ではコストが高くついてしまう。そこで弊社では300人以下の企業をターゲットに、制度設計をテンプレート化したシステムを提供している」(水野谷氏)。
導入時には規定等の作成や従業員向けの説明会を代行するなどのサポートも行う。また中小企業ならではの悩みとして、敷金礼金の支払いで財政負担をかけられないことも多い。そのため、freeeのサービスでは敷金礼金は従業員の個人負担とするスキームを構築した。
住む場所がより自由に
このサービスを活用している企業の1つにラクスルがある。同社経営管理部の志村直哉氏は「福利厚生を充実させる観点から、借上げ社宅制度は6~7年前から検討していたが、事務処理の大変さなどを理由に導入に至らなかった」と振り返る。そんな中、コロナ禍でリモートワークが広がり出社率が2~3割になったことで、働き方や福利厚生の在り方を変えていかなければならないと実感。その一環としてfreeeのサービスを活用し、借上げ社宅制度を導入した。
持ち家の社員もいるため、現在の利用状況は全社員の1割程度だが、採用時に案内することでの利用者が増えている。管理者側としても、「導入や運用は想定よりもスムーズにできている」と志村氏は実感する。
スタートアップでは特に会社の近くに住むことで家賃補助をするなど、「会社が住んでほしいところに住んでもらう」という傾向があったが、コロナ禍でテレワークが普及。「会社の近くに住む必要がなくなったこともあり、柔軟に住む場所を選ぶには借上げ社宅制度が対応しやすい」とfreeeの水野谷氏は話す。実際ラクスルでも同様の制度を導入していたが、コロナ後に借上げ社宅制度導入に移行した。
ウォンテッドリーが行った調査(※2)によると、2021年6月の移住者は昨年同月比で4.1倍となった。また、過去3年以内に移住を経験していない人の中でも、24%が「移住を検討していた」と回答。移住者も移住検討者も、理由の1位は「テレワーク主体の働き方になり、家賃が高い都心に住む理由がなくなったため」だった。高まる移住のニーズに対しても、借上げ社宅制度は柔軟に対応できる可能性が高い。
(※1)https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003299690
(※2)ウォンテッドリー「移住と働き方に関する調査結果」