世界初の水素燃料活用も、ガラス製造に革新の時
大量のエネルギーを消費するガラスの生産プロセスが変わろうとしている。日本板硝子は水素を燃料に用いて建築用ガラスを製造する実験に世界で初めて成功した。実用化すれば、ガラス溶融窯からの二酸化炭素(CO2)排出量を8割強削減できる革新技術だ。AGCは酸素や電気を利用した溶融の効率化でCO2排出削減を目指す。ガラス製造で、建物や車の脱炭素化への貢献につなげる。(梶原洵子)
日本板硝子、水素燃料で建築用製造
「カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向けて板ガラスが革新できると示せた」。日本板硝子のマイク・グリーンナル執行役最高技術責任者(CTO)は、水素燃料を用いたガラス製造実験の手応えを笑顔でこう語る。
実験は、英セントヘレンズにあるグリーンゲート事業所のフロートガラス製造ラインで実施し、6×3メートルサイズのガラスを作製した。第1段階は溶融窯に設置されたバーナー8本のうち1本で、燃料を天然ガスから水素100%まで段階的に切り替えた。第2段階は、バーナー8本全ての燃料で天然ガスに水素を20%混合した。
政府支援の下で行われた同実験は、英国中の水素をかき集めた大規模なものとなった。「水素100%での実験もやりたかったが、水素が足りなかった。だが、(100%を実現するのに)必要な実験はできた」とグリーンナルCTOは語る。
水素燃焼の難しさは天然ガスと水素では燃焼や炎の性質が全く異なる点にある。天然ガスではメタンが燃えて発生するススがガラス表面に熱を伝える役割を果たす一方、水素から発生する水は熱を伝えない。これを補うため「コンピューターで流体力学モデルを解析し、バーナーのデザインを変えた」(グリーンナルCTO)。
日本板硝子は2030年にCO2排出量を18年比21%削減する目標を掲げるが、「水素は技術よりも供給の課題が大きい。30年までにガラス製造の燃料転換に必要な量を確保することは難しい」(同)とみる。水素は30年より、先のカーボンニュートラル技術として保持しつつ、今後は調達しやすいバイオ燃料を用いた実証実験や、電気を用いた溶融への再生可能エネルギー利用を進める。
実験を行った英セントヘレンズでは約70年前に「フロートガラス製法」が開発され、世界の板ガラス製造の基盤となっている。グリーンナルCTOは、水素利用技術についても、「(他社と)協力できる環境が整えば協力したい。それによって早く開発が進むのなら、業界全体のメリットになる」と話す。
AGC、溶融効率化でCO2削減
AGCは世界各地のガラス溶融窯へ、酸素で天然ガスを燃焼させる「酸素燃焼」技術や電気ブースターの導入を開始した。酸素燃焼は、空気中で天然ガスを燃焼させる従来方式に比べ、「少なくとも15%程度のCO2削減効果がある」(同社担当者)という。燃焼しやすい酸素の利用に加え、窯から排出される高温の排ガスで酸素を暖め、エネルギーの利用効率を高める。
電気ブースターは、炉内に設置した通電バーから流れる電気でガラスに通電させ、ガラスを高温にすることで溶解を補助する。両技術は、今後も生産設備の定期修繕に合わせて導入を検討する。
同社は、長期的にはCO2回収・利用(CCU)や水素などを含めたクリーン燃料利用による技術革新も目指す。「あらゆる技術開発に取り組み、業界のトップ企業としてガラス溶解におけるCO2削減をリードしていく」(同)と意気込む。
ガラスは建物や車、情報端末など多様な製品に使われている。日本板硝子のグリーンナルCTOは「カーボンニュートラルは脅威とも考えられるが、エキサイティングで大きな機会となる」と語る。生産プロセス革新で、新たな可能性を探る。