世界で縮小する抗菌薬開発を推進する塩野義製薬のSDGs
感染症を注力領域に据える塩野義製薬は、抗菌薬(抗生物質)が効かなくなる薬剤耐性(AMR)感染症治療薬の研究開発を手がける。欧米で承認取得した多剤耐性グラム陰性菌感染症治療薬「セフィデロコル」は、世界保健機関(WHO)が緊急性が高く重大と位置付ける3種のカルバペネム耐性菌すべてに対応。貴重な薬剤として期待されている。
「世界を感染症の脅威から守る」と掲げる塩野義は新薬開発に加え、患者の状態に最適な薬剤を適切な用法・用量で提供する適正使用を推進している。セフィデロコルはギリシャ神話の『トロイの木馬』のように、細菌の外膜を効率的に通過し抗菌活性を発揮する。
医薬品業界や国際機関とともに、グローバルなAMR対策にも参画している。このほど、AMR感染症治療薬を研究開発する非営利団体のGARDP(スイス・ジュネーブ)などと連携した。発展途上国でセフィデロコルのアクセス環境を改善する。抗菌薬を使いすぎると細菌は薬剤耐性を獲得し、既存薬が効かなくなる問題が発生する。連携により医師向けの臨床ガイダンス作成や教育を充実し、適正使用につなげる。
2050年、多剤耐性菌に起因する世界の患者数は1000万人を超え、経済損失は100兆ドルにおよぶとされる。AMRは気付かれずに国や病院で流行する「サイレントパンデミック」とも呼ばれる。一方、世界で抗菌薬開発は縮小している。薬価が低いほか、薬効を温存するため耐性菌感染症が確認される場合などに使用されなければならず、販売の拡大を追求できない。公衆衛生上の意義が高いにもかかわらず、ビジネスとして成功させるのが難しい。
沢田拓子副社長は「市場を健全にする『プル型インセンティブ』制度の導入が重要だ」と訴える。政府が抗菌薬をサブスクリプション(定額制)型で買い取るなど、製薬企業が抗菌薬の研究開発へ持続的に投資できる環境整備が必要となる。より多くの事業者の参入意欲を高める仕組みづくりが求められる。
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