開発進む新型コロナの国産ワクチン、年内供給なるか
新型コロナウイルス感染症の国産ワクチン開発が前進している。政府が年内にも国産ワクチンが承認される可能性を言及し、製薬メーカーやバイオベンチャーが進める開発に追い風が吹くとみられる。一方で臨床試験の最終段階では、国内のみならず海外の被験者を含めた大規模な接種を実施し、安全性や有効性を確認しなければならない。例外的に早期承認を得られる制度整備も重要性が増している。(大阪・中野恵美子)
アンジェスは3月、DNA(デオキシリボ核酸)ワクチンについて第2相臨床試験で500人への接種を完了した。年内の承認取得を目指している。しかし、臨床の最終段階である第3相臨床試験への移行時期や実施場所は未定としている。同社は「規制当局によるガイドラインの発出を待っている」と状況を説明。
当初は数万人を対象とした第3相臨床試験を計画していたが、世界でワクチンの普及が進む中、偽薬を使った臨床試験は倫理的な壁もある。さらに「接種が進み、集団免疫が付くと発症や重症化予防といった効果で有意差を出すことが難しいだろう」(同社)と見る。
塩野義製薬も、遺伝子組み換えたんぱくワクチンについて第3相臨床試験と並行しながら、一定の条件を達成した上で早期承認を得て年内の供給開始を狙う。UNIGEN(岐阜県池田町)が原薬製造し、アピ(岐阜市)が製剤製造を担う。21年中に年間3000万人分以上の生産体制を構築する。変異株対応のワクチン開発も進めており、手代木功社長は「日本特有の変異ウイルスが発生した場合、国内で対応する能力を確保することが重要だ」と説く。
同社は日本の医療に適した供給体制を描いている。かかりつけ医で接種できるよう、1人1瓶で冷蔵保存できるほか、将来は季節性インフルエンザと新型コロナのワクチンを一度に完了することを目標にする。開発着手は海外に後れを取ったものの、後発メリットを生かせるような仕組みづくりが求められる。
国内では3月、新型コロナワクチンとして第一三共がメッセンジャーリボ核酸(mRNA)ワクチン、KMバイオロジクス(熊本市北区)は不活化ワクチンについて、それぞれ第1/2相臨床試験を始めた。
国産ワクチンの開発力や生産能力を確保するのは国民の健康を守る上で安全保障の観点から意義が大きい。ワクチン接種後の効果持続期間が限られる中で海外製ワクチンを調達し続けることには疑問符が付く。日本産ワクチンができれば、発展途上国へ輸出するといった国際的な役割を果たすこともできる。ワクチン開発する企業努力のみならず、状況に応じた柔軟な制度設計を含め、政府のかじ取りも注目される。