グリーンランド氷床で降雨量の増加が始まった。その原因は?
気象庁気象研究所の庭野匡思主任研究官らの研究グループは、グリーンランド氷床で地球温暖化に起因する降雨量の増加が始まっていることを明らかにした。氷床での降雨変動を数値シミュレーションにより詳しく定量化し、降雪と降雨を合わせた全降水量に占める雨の割合が有意に増加していることが分かった。温暖化による影響の理解や適応策検討の高度化につながる。
北極域は地上気温上昇率が北半球の約2倍と温暖化が進む。特に氷床上の降雨は地球全体の海面水位を上昇させるとされる。だが、直接観測が難しいため詳細な実態把握はできていない。
研究グループは気象研究所が開発した雪氷圏に特化した領域気候モデルを使い、1980年から2019年のグリーンランド氷床周辺の大気や、雪氷物理状態を数値シミュレーションにより正確に再現した。
解析の結果、降雨は氷床縁辺域の標高2000メートル以下の領域で集中的に起きており、氷床のほぼ全ての領域で降雨が増加傾向にあった。流域ごとに見ると、北西部が最も増加していた。これは近年北西部に高気圧縁辺が位置し、南からの暖かく湿った空気が以前より到達しやすくなったためと考えられる。
また、温暖化の指標となる短時間強雨について調べてみると、9月に氷床南部で顕著に増加していた。南部は氷床質量損失が特に多いエリアとされる。
国立極地研究所、デンマーク・グリーンランド地質調査所、デンマーク気象研究所との共同研究。
日刊工業新聞2021年8月27日