少数精鋭で見せる!ディープランニングで防災情報提供するインキュビットの凄さ
0.1mmのひび、自動検出
深層学習(ディープラーニング)の国内外研究者を抱え、独自エンジンをさまざまな業界の課題解決に適用しているインキュビット(東京都渋谷区、北村尚紀最高経営責任者〈CEO〉、03・6450・2377)。防災分野では気象庁気象研究所(茨城県つくば市)との竜巻の自動予測システム、応用地質との土砂災害危険地域の地形判読で開発実績があり、契約先を増やしている。
技術力に反映
インキュビットの社員は15人で、うち日本人は3人。このほかフランス、ポーランド、ルーマニア、南アフリカ、インド、中国、台湾など10カ国・地域から人工知能(AI)、ディープラーニングの研究で来日した海外人材を中心に構成し、台湾にも拠点を構える。いずれもハイレベルな研究をしており、ディープラーニングによって自動解析するAIを開発する同社の技術力に反映されている。
その一つが「少ないデータで高性能解析ができる画像認識AIを開発できる点」(北村CEO)だ。通常、ディープラーニングはデータを大量に学習させて精度を上げるため、開発期間は長くなりコストもかさむ。同社は少量のデータで高い精度を実現できるニューラルネットワークを実現している。例えば道路表面のひび割れ検出の場合、従来は数万枚の画像の学習が必要とされてきたのに対し、200枚程度で開発できる。
商談でも強みを発揮できる。イメージとして解析精度がA地域95%、B地域80%、C地域60%だったとする。これまでは顧客の求める合格点が95%だった場合、Aが合格点だったとしてもB、Cを加えた3地域全てで95%を達成するために数万枚を学習させる必要があった。
同社はA、B、Cそれぞれで200枚程度を学習させ、最適な3種類のAIを提供できる。「その時、その場、その方が求める基準(レベル)に最適なAIを瞬時に提供する」(同)。
5分で地形判読
さらに「画像1枚」の単位だけでなく、複数の画像やメタデータ(そのデータに関する基本データ)と合わせたAIを開発する。例えば衛星写真を解析する場合、衛星写真や標準地図、陰影起伏図、等高線などを組み合わせて学習させる。
気象研究所とは竜巻や突風などの自動予測・情報提供システムを共同で研究開発した。さまざまな気象データを読み込ませたAIを開発することで、竜巻の進行方向で走行中の電車を緊急停止させるといった応用につながる。一方、応用地質とは地形的な特徴と地形判読の専門家の判読結果を学習させ、土砂災害の危険の高い地域を抽出する地形判読AIを共同開発した。熟達した専門家が約1カ月かかっていた判読作業を約5分に短縮できたという。東京都中小企業振興公社の助成事業にも採択実績がある。
コンクリートやアスファルトの表面の解析では道路だけでなく、橋梁や壁面にも応用している。現在、幅0・1ミリメートルのひびを自動検出できる。(編集委員・米今真一郎)