台風19号の経済損失は世界最高額…気候変動×レジリエンスとビジネス
このところ異常気象が甚大な被害を日本にもたらしている。2018年7月の西日本豪雨では、220名超の人命が失われ、2万を超える家屋が全壊・一部損壊、3万戸以上が浸水した。これまで経験したことがない降雨であったことは、観測史上記録を更新した雨量観測点が、48時間雨量については125地点で、72時間雨量については123地点に上ったことでも裏付けられる。それに続く猛暑もすさまじく、7月の東日本の月平均気温は平年と比べて2・8度C高く、1946年の統計開始以来第1位、西日本は第2位タイの高温となった。熱中症により緊急搬送された人は5万4220人、死者は133人にも達した。まさに命にかかわる災害級の暑さだった。
甚大災害 多発、高まる企業の危機意識
2019年の台風15号、19号が、ライフラインである電力供給の途絶を含め、首都圏、長野県、栃木県、福島県などに多大な損害を与えたのは記憶に新しい。被災地の企業の事業停止は、これらの企業が支える広範なサプライチェーンにも大きな影響を与えた。
18年の西日本豪雨と関西地方を襲った台風21号の経済損失は230億ドル(約2兆5000億円)に達し、保険支払額は110億ドル(約1兆2000億円)を超えた。19年の台風19号の経済損失はその年の世界最高額を記録し、台風15号の経済損失とあわせて250億ドル(2兆7500億円)に達した(表)。世界的に見ても、ここ30年で、気象関連自然災害による経済損失額は約3倍に増加している。
気候科学の進展により、こうした目下の異常気象・災害に人間の排出がどれほど寄与しているかがわかるようになってきた。文部科学省の「統合的気候モデル高度化研究プログラム」のもとで行われた気象庁気象研究所・川瀬宏明研究員らの研究は、温暖化がなければ18年の猛暑のような異常高温が発生する可能性はほぼ0%、西日本豪雨については、近年の気温上昇が降水量を6―7%程度増加させた可能性があるとする。西日本豪雨の降水量が一律6―7%少なかったとすると、史上記録を更新した雨量観測点は100を下回り20%ほど減少する。
気候変動でビジネスにダメージ
気候変動がビジネスに与える影響・リスクを企業も感じ始めているようだ。週刊東洋経済19年5月18日号で紹介されている上場企業150社に行ったアンケート結果は、興味深い。回答した108社のうち、気候変動によって将来「商品やサービスが供給できなくなる」「自然災害による事業資産や財務へのダメージが大きくなる」と答えた企業がそれぞれ70社を超え、影響は少ないと考えている企業はわずか数社だった。金融機関、機関投資家は、脱炭素化に向かう社会や市場の変化が与える財務リスクとともに、将来の気候変動の影響が与える財務リスクについても、企業が分析し、情報を開示することを求め、そうした情報も踏まえて投資・融資の判断を行うようになっている。そのことが気候変動の影響に対する企業の認識も高めているのだろう。
将来、起こりうる気候変動が与える自社の資産やビジネスのリスクに適切に対応することが、金融市場での企業の価値、評価を高める時代になった。気候変動に対するレジリエンス向上を求める社会のニーズに応えることは、新たなビジネス、市場につながるチャンスにもなりうる。そして、温室効果ガスの排出を削減する努力は、自社そして社会の将来の気候変動リスクを低減し、レジリエントな社会の実現にも貢献することになる。
【略歴】たかむら・ゆかり 島根県生まれ。専門は国際法学・環境法学。京都大学法学部卒業。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位修得退学。名古屋大学大学院教授などを経て現職。日本学術会議会員、再生可能エネルギー買取制度調達価格等算定委員会委員、中央環境審議会委員、東京都環境審議会会長なども務める。