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授業料は取得単位数で決定!?私大に大変革の可能性

私立大学の教育と経営はオンライン授業の浸透で大変革の可能性を見せる。私大は施設整備の規制緩和によるコスト削減を要望するが、学びの質の確保に課題が残る。大学生の8割は私立大に在学する。多様な議論を展開してほしい。

日本私立大学連盟(私大連)は提言「ポストコロナ時代の大学のあり方 デジタルを活用した新しい学びの実現」をまとめた。文部科学省の大学設置基準は対面授業を前提に設定されているが、オンライン授業の増加を念頭に、校地面積や校舎などの施設、運動場、図書館の設置基準の細かな規制の緩和を求めている。

私大は授業料や施設費などの学費が基本収入。これを教員や事務職員の人件費、施設・備品やIT関連の支出に充てる。提言をまとめた田中優子法政大学前総長は「(設置基準の変更で)施設費を抑えれば授業料は低くできる。1科目当たり授業料の設定も視野に入る」と説明する。その上で実習・実験や人間形成の場の充実は、各大学の独自性に委ねるべきだという。

「オンライン授業で教育サービスが不十分なので授業料引き下げを」という学生らの声に応えることにもつながる。

一方で気になる点は多い。多くの学生と保護者は、サークル活動や同級生とのリアルな交流の場(施設を含む環境)を期待している。対面のキャンパスライフが少ないと、教員の研究活動や大学の将来を中長期視点で支える意識も弱くなる。

社会人の学び直し(リカレント)教育においては、科目ごとの授業料設定は有効だが、実践的教育とリアルなキャンパス体験が損なわれる懸念もある。オンラインの利便性なら、放送大学や大学院を含め、約24万人が学ぶ通信制大学がすでに存在する。学生が求める学びの質の確保という根本からの教育改革に取り組まねば、底の浅いコスト削減対策に終わってしまう。

ポストコロナの社会・大学像はすぐには決まらない。多様なステークホルダー(利害関係者)との対話を重ね、より良い方向性を見いだしてもらいたい。

日刊工業新聞2021年8月18日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
量によって価格が変わる「従量制」の授業料は、リーズナブルな面が確かにある。目的が学位取得など、コストを抑えて効率的に学びたい社会人と、ブランド力がある私大の間ではまるかもしれない。が、それが可能な大学はそう多くないだろう。学生と保護者は一般に、ホームカミングデーで目にした素敵な校舎やグランドにひかれ、リアルなキャンパスライフの絵を描くのだろうから。私大連の主張は「魅力的な施設が必要と考える大学はもちろん、そこに投資をする。求めているのは設置審の制限をなくして、自由にさせてほしいということだ」と理解はしているのだが…。

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