コロナ禍のオンライン授業で大学改革が進む。学長たちの声
新型コロナウイルス感染症対応で今春、ウェブを使ったオンライン授業が各大学で本格化した。感染リスクを考え、対面授業の再開はまだ一部だ。今後は「オンラインと対面を組み合わせ、多様な授業が増える」とみる大学は国立、私立問わず多い。私立大では教育に加え、施設整備など経営面でも影響が出てきそうだ。大規模大学の学長らの見通しをまとめた。(取材=編集委員・山本佳世子)
【高い満足度】
対面(面接)授業は高校以下では再開が進むが、文部科学省の大学調査(6月1日時点)では様子が違う。この時点で「遠隔授業のみ」だった大学などのうち「6月中に一部でも対面再開」としたのは約半分。「7月中」が1割、「それ以後」も1割強だ。
すぐに戻らない理由として、大学ではある程度までのオンライン授業での単位認定が認められていること、遠隔地の実家にいる学生や留学生など事情が多様なこと、数百人の大講義科目もあり感染対策が難しいことなどがある。また開始時は大騒ぎだったが、実施してみると「オンラインの方がチャット機能で質問が多く出て活発だ」など、教員・学生の満足度は意外に高い。そのため慌てて元通りにしなくてよい、と考える大学が多い。
日本私立大学連盟は、新型コロナでの政府支援における国立大と私立大の差の解消を訴える提言を公表した。一方、オンライン授業に国立と私立の違いはさほどないとしている。教室の人数制限がないため、学生数の多い私立大の方が具合よい面もある。

私大連の会長を務める長谷山彰慶応義塾長は「長期的に授業は(オンラインと対面の)ハイブリッドになり、その中身も多様化する」と強調する。セキュリティー基盤の整備に余力がない小規模大学を除き「より高度なオンライン教育が進む」とみる。
【反転授業】
早稲田大学の田中愛治総長は「オンラインのうち欧米で先進の反転授業を、本学では7年ほど前から実験的に行っている」と紹介する。反転授業とは、座学の内容はオンデマンドで各学生が予習しておき、その後のキャンパスでの対面授業は議論や演習に注力する学びだ。大規模公開オンライン講義(MOOC)の実施大学・教員の間では、反転授業の高い教育効果が注目されていた。これまで後ろ向きだった大学・教員も、今後は気にせざるを得ないだろう。
【改革の要因に】
また、オンライン授業が一般的になると、大規模私立大で必須の300―500人教室は出番が減る。「9月以降は感染対策で、200人教室に50人の対面授業というケースが出てくる」(田中愛治総長)とみる。
法政大学の田中優子総長は「(対面授業禁止を)少しずつ、どのように緩和するか検討に入っている。卒業研究、実習・実験、図書館利用などが対象だ」と現状を説明する。学内でも多様な授業が続くと、オンライン授業の受講アクセスのための教室が必要だ。「オンデマンド教材作成のスタジオなど、キャンパスの使い方はがらっと変わる」(田中優子総長)と読む。
大学設置基準にある「学生1人当たりの校舎面積」もそぐわなくなってくる。これは私立大で緩和の要望が強い項目のため、私大連の提言でも取り上げられた。
一方、国立大学協会会長の永田恭介筑波大学長は「(オンラインの中でも)双方向授業が増えると、より大きなサーバーが必要になる。通信会社による学生の通信料支援も改めて問題になるかもしれない」と心配する。
東北大学の大野英男総長も「今は教員も学生も新たなツールの使いこなしに注力しているが、将来はバーチャルとリアルのミックスになる」と認識する。新型コロナはこれまでと違う観点から、思いのほか大学改革を進める要因になるかもしれない。
オンライン授業は大学教員の教育力の優劣をあぶり出す
出典:日刊工業新聞2020年5月4日
新型コロナウイルスの対応で、大学はオンライン授業の準備・スタートに追われている。筆者は非常勤講師として技術コミュニケーションの講義を担当しており、双方向のテレビ会議や、別の時間帯に視聴してもらうオンデマンド型の体験がある。その経験から大きな課題があると以前から気になっていた。
それは「オンライン授業が普通になると、一般教養科目など大学ごとの開講に意味がなくなるのではないか」「大規模公開オンライン講義(MOOC)や、放送大学など通信制大学の科目で十分だとならないか」ということだ。逆に個性的で魅力ある授業はその大学の売りになり、MOOCの公開でも人気が殺到する、と過去の取材でも聞いていた。
筆者の授業は大学コンソーシアムの運営で、当初は「本当に北海道や九州の大学院生が同時に学んでいる」ことに単純に驚いた。そして東京での集合授業では、オンラインでのギャップを埋めるべく、対話を重視した演習指導に熱を込めた。
一方、今春の初体験はオンラインでの個別取材や会見だ。例えば東北大学は新型コロナ対応で計4億円規模の学生支援をオンライン会見で発表した。地元以外の記者も参加可能だ、と担当者がわざわざ声をかけてくれた。
これなら距離や会見場の広さは問題がない。通信環境の改善が進めば、主催者が小規模な機関でも、メディア企業に頼らず全会見をウェブ配信するケースが出てくるだろう。
教員も記者も従来は、知識や情報をあまねく伝えることが重要だった。昨今はそれだけでは不十分だとされ、その評価は“コロナ後”に一気に進むだろう。プロとしての資質や能力を、あらためて考えさせられている。
