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国立大との予算格差訴えるが…私大連が抱える自己矛盾

国費はほしいが経営には口を出さないで欲しい
 日本私立大学連盟(私大連)が国立大と私立大の“国私格差”を訴えている。学生1人当たりの高等教育公財政支出は国立と私立で13倍の差がある。格差是正に向け、私大への研究教育予算や地方創生予算の配分増を要望する。だが大学経営について国から評価されることは望まず、予算拡大の壁になっている。自己矛盾を抱えつつも支援を訴える背景には、強い危機意識がある。

 日本の科学技術力停滞の一因に、高等教育機関への投資が小さい点が挙げられる。日本の公財政支出は2014年で学生1人当たり69万円。EU22カ国平均は125万円、OECD加盟国平均は111万円だ。これが高等教育に投資が少ない根拠とされてきた。

 一方で国立大に絞れば学生1人当たり202万円と世界有数の規模になり、教育を重視する北欧と肩を並べる。反対に私大に絞ると16万円。OECDで最下位にとどまる。この“格差”が私大連の政策要望の根拠となっている。私大連会長の鎌田薫早稲田大学総長は「せめて国立大なみの支援がほしい」と訴える。現在、大学生の約8割は私大に通う。格差を授業料などの家計負担が支えている。

 一方で、国費を受け取るために大学の経営を国に評価されることは望まない。私大連常務理事の田中優子法政大学総長は「画一的評価は私大の多様性を損ない、日本社会の柔軟性を損ないかねない」と危惧する。

 広瀬克哉法政大常務理事も「大学が参画する地方創生予算は理系国立大向けに大型枠が設計されている。私大は小規模で多様な活動を展開している。国は政策評価の手間を削減するために、多様性を排除しているようにさえ受け取れてしまう」と指摘する。

 国費はほしいが、大学経営に口を出さないでほしい。大学経営の多様性を認めてほしいが、多様性を評価する余裕のない国から予算がほしいという矛盾を抱える。私大連副会長の長谷山彰慶応義塾長は「二律背反はある」と自認する。

 私大連がこうした矛盾を抱えたまま政策要望の声を強めるのは、近年の急な政策執行にある。東京23区内の学生定員数を規制した「23区規制」の問題では文科省との議論とは別に、内閣府主導で閣議決定された。文科省は「我々には私大の経営に踏み込む意思も権限もない」と突き放す。

 鎌田会長は「政府検討会の議論では負けに負けてきた。役所への働きかけでは変わらない。社会に問いたい」という。国立大やノーベル賞受賞者を中心に、基礎研究や若手研究者への支援を求める声が大きくなっている。社会の関心も高まる中、私大連は国や社会を振り向かせられるか。正念場を迎えている。
私大連が9月に開いた政策要望会見。中央が鎌田会長

(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2018年11月2日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 国私13倍の差を大きいとみるか、妥当とみるか。国費は欲しいが国に大学経営を評価されたくない、という矛盾をどう考えるか難しい所です。私大連は国による評価でなく、公正な第三者機関による評価を望んでいます。国と公正な第三者機関で評価が変わるなら、どんな要因があるのか、とても面白い研究テーマになります。私大経営の多様性をもっと評価すべきと訴えます。一方で私大卒業生の多様性については私大連は評価していません。学部の強みが国家試験の合格率だったりする大学もありますが、合格後の人材多様性を広げるような取り組みをして多様性を評価軸にPDCAを回している大学は多くはありません。このままでは、予算配分にあたって多様性が大事だから、大学経営や卒業生の多様性を評価すべきであると、自己評価を求められると議論が止まってしまいます。その間に文科省ではないところで改革が進むかもしれません。 基礎研究も教育も、バラマキか、選択と集中かという議論では、そもそも財源によってはバラマキが選べないこともあります。国の科技予算が限られるため、ある程度、集中投下して成功例を作り、他は成功例をまねして欲しいという意図はあります。成功例を作るために必要な投資と、成功例をまねるために必要な投資では金額が違うためです。私大助成の目玉である私立大学等経常費補助は3168億円が873校に配分されています。等分すると3.6億円。国は私大経営の多様性を定量評価していませんが、尊重しているともとれなくもない数字です。要望会見に登壇された先生たちの大学は、私大連の要望が通っても、通らなくても、大学が揺らがない経営基盤があります。一方で私大助成が減れば経営が傾く大学もあることも事実です。私大連幹部には「私大連としての要望であって、大学の主張ではない」と明言する先生もいます。私大連の多様性が矛盾の根源のように思います。このままでは私大と政策側の対話が止まっているうちに、急な改革や淘汰が進むように思います。

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