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カリスマ経営者が考える大学教育とは何か。「永守流」改革3年目の真価に迫る

京都先端科学大学理事長・永守重信氏インタビュー
カリスマ経営者が考える大学教育とは何か。「永守流」改革3年目の真価に迫る

日本電産の永守会長


日本の大学教育は間違っている―。こう主張する経営者は少なくないが、私財を投じてまで大学経営に乗り出す経営者は珍しい。数少ない例外が日本電産創業者で会長の永守重信氏だ。2018年に京都学園大学(現京都先端科学大学)理事長に就任以来、工学部新設やビジネススクール立ち上げなど矢継ぎ早に改革を進めてきた。カリスマ経営者が考える大学教育とは何か、改革はどのように進んでいるのか迫った。(聞き手・尾本憲由、大原佑美子)

―大学経営に携わり3年。教育の成果に手応えはありますか。

「大きな変化が出ている。先端科学大に来たくて入学した学生が増えており、以前とはレベル、意欲が全然違っている。ただ、実際の1期生は(19年4月に)京都先端科学大学に校名を変えてから。彼らが卒業するのは再来年からだが、本当の評価は10期生が登場するころ。卒業生が20代後半になり、どのように活躍しどのような地位についていくか。その辺までいかないと本当の評価はできない」

―偏差値やブランドで大学を選ぶ状況を批判されています。

「私の友人から、彼の孫が話したいと電話がかかってきた。その子は私の考えや大学方針も理解し、ぜひ先端科学大に入りたいと熱望したそうだが、家族に反対され、有名私大に進んだ。けれども先端科学大に行くべきだったと反省しているという。祖父である友人も(偏差値で大学を見る)世の中の親と同じことをしてしまった。大学は社会のために役立つ人材を輩出しなくてはならない。しかし偏差値が高いからとか一流ブランドだからといって、社会に貢献できるとは限らない」

「大量生産方式のマンモス大学にする気はまったくない。有名大学では定員に足りず、再募集でレベルを落としてまで生徒を集めたところもある。我々は財政的に少し悪くなってもそのようなことはせず学生を教育し、社会に送り出していく。そんな教育方針をもっと世の中に訴えなくてはならないが、私の友人みたいに、先端科学大が良いのは分かっても、やっぱり有名大学となってしまう。まったく矛盾している」

―産業界から大学教育への不満は根強い。それなら、自ら大学経営に乗り出す経済人がもっと現れても良いと思うのですが。

「日本の社会は本音と建前が違う。今の大学には問題があると建前論は言うが、批判だけでは意味がない。建前論だけでは、どこまで行っても実行できない。政府が、社会が悪いと言っていても何にもならない。自分たちでできることからやっていくというのが、私が今やっていること。小さな一人の人間がやっていることなのでたかが知れているが、どのような改革も最初は小さな風穴を開けるところから始まる」

日刊工業新聞2021年5月27日

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