日鉄物産が在庫・物流の効率向上へ、稼働する「鋼材流通DX基盤」の実力
日鉄物産は鋼材流通のデジタル変革(DX)を推進し、「鋼材流通DXプラットフォーム(基盤)」を2024年度までに構築する。自動車部品や産業機械などの顧客企業からの引き合いや受注に対応し、製品の納入管理、検収、代金回収までをフルデジタル化。グループの販売・加工会社を含むサプライチェーン(供給網)一貫で、在庫や物流の効率や生産性を高め、顧客満足度を向上させる。22年度中には一部での稼働を目指す。
日鉄物産は21―25年度の中長期経営計画でDX戦略を掲げた。5年間のシステム投資総額170億円のうち鋼材DXに相当程度を投じる見通し。メーカー系鉄鋼商社における供給網一貫の流通DXはまだ例がない。
DX基盤は顧客に対応する一方で、日本製鉄などメーカーとつなぎ、製品仕様の検討から発注、生産・納入情報の入手、支払いまでを効率化する。鋼材流通はメーカーや顧客が多い上に少量多品種や厳しい納期・品質管理が求められるため、対応のスピードや生産性が課題となっていた。
日鉄物産でもマンパワーに依存する場面が多く、人為的ミスなどもあった。DX化によりミスを回避し、情報のリアルタイム化や可視化を進める方針だ。
インタビュー/日鉄物産社長・佐伯康光氏 海外需要を開拓
国内の人口減や低い経済成長見通しを受け、鋼材や繊維の販売を取り巻く環境が変化している。5カ年の経営計画の狙いや数値目標の考え方を佐伯康光社長に聞いた。(編集委員・山中久仁昭)
―目標では、比較の起点をコロナ前の19年度としていますが。
「20年度の業績はコロナ禍であまりにも異常値だったためだ。23年度の経常利益は19年度に比べて90億円増の420億円で、25年度には450億円プラスαを目標にした」
―どのように利益を伸ばしますか。
「数年間の環境変化による減益リスクで120億円程度見込む。これをカバーするため、人員の効率化や製造・販売拠点の統合・撤退など事業基盤強化の効果で100億円、新規・海外需要の取り込みなど成長戦略の効果で110億円を想定する」
―鉄鋼事業は経常利益の7割超を担っています。
「国内は低成長でも新規・海外需要を開拓し、連結鋼材取扱量はピークの18年度比100万トン増の2100万トン以上に拡大させたい。50年の脱炭素に向け、電磁鋼板や電気自動車(EV)、水素ステーション関連などの素材の販売を強化する。アジアやインド、北米など成長地域では、インサイダー(内部関係者)化を進展させたい」
―DXが生産性向上などのカギを握ります。中堅・中小顧客の中には依然、紙文書をファクスでやりとりするケースがあります。
「プラットフォーム構築に当たり、導入メリットを顧客に具体的に提案することが大事。鉄鋼で先行的に取り組み、繊維、食糧分野でもサプライチェーンの基盤を整備したい」