売上高・営業利益で携帯大手トップに。KDDIが結果に結びつけたM&A・協業戦略
政府の要請などに伴い、2020年度は消費者向け通信料金の引き下げが進んだ。そうした中、KDDIは21年3月期連結決算(国際会計基準)で増収営業増益を確保。携帯通信大手3社の中では売上高・営業利益ともに首位となった。高橋誠社長は「成長領域を早めに定義し、その成長で補えたことが今回の結果に結びついた」と総括。金融などの非通信分野による収益拡大に手応えを示した。
実際、非通信領域における柱の一つである法人事業では、数年前からM&A(合併・買収)や共同出資会社の設立といった施策を矢継ぎ早に行ってきた。例えば17年12月には、KDDIデジタルデザイン(東京都千代田区)を野村総合研究所(NRI)と設立。企業のデジタル変革(DX)を支援する上で、NRIの持つコンサルティングの知見を生かす狙いがあった。
森敬一KDDI取締役執行役員専務は、新規事業について「“飛び地”は作らない」と話す。中核事業としてきた通信と親和性の乏しい分野は手がけない方針だ。また、出資が伴う案件においては「成功に一定の責任を負う意味で、基本的には持分法適用関連会社以上にはしたい」とし、少額出資には否定的な見解を示す。
一般論で言えば、子会社の価値を顕在化する手段として株式公開(IPO)を行い、上場益を得て投資を回収する出口戦略がある。ただKDDIは「まずは本体とシナジーを発揮して、特に外部向けの売り上げを大きくすることが一丁目一番地」(森氏)。IPOも一つの選択肢としているが、上場ありきの思想とは距離を置く。
森氏は「(自社の能力が)足りないところに石は置いたが、それぞれを強くすることが課題だ」と語る。共同出資会社に対しては「遠心力を重視する」とし、自主性の発揮を期待している。変化の激しい情報通信業界においては妥当と考えられるが、法令順守などの企業統治を万全にしつつ、スピード感も高められるか試される。