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経営体質の転換図るセイコーエプソン。従来の売上高目標にあった事業戦略の甘さ

ROIC 経営指標に追加

セイコーエプソンは収益性を重視した経営体質への転換を図っている。2025年度までの長期ビジョンを3月に改訂し、売上高目標の外部への公表をやめた。「事業戦略に甘さがあり、過度な売り上げ成長を前提とした計画だった」(小川恭範社長)と戦略を見直し、新たにROIC(投下資本利益率)を経営指標に追加した。

同社は従来、25年度に売上高1兆7000億円を掲げていたが、20年度は9959億円で着地し目標達成は難しくなっていた。また、営業利益に当たる事業利益が売上高に占める割合「ROS」は、15年度の7・8%から19年度に3・9%まで落ち込んだ。20年度は6・2%まで持ち直しているものの、さらなる収益性の改善が必要だった。

そこでROICを経営指標に追加。20年度に5・6%のところを23年度に8%以上、25年度は11%以上に引き上げる計画だ。

ROIC向上のため在庫圧縮に取り組むほか、事業ポートフォリオの管理を徹底する。各事業を「成長」「成熟」「新規」の三つに大別し、それぞれの位置付けに合わせた資金配分や目標設定を行う。「成熟」の中でも収益性・成長性が低いICテストハンドラーは1月に事業譲渡契約を締結し、ウオッチやプロジェクターは構造改革を進め、筋肉質な収益構造への転換を図る。岡三証券の島本隆司氏は「成長事業の商業・産業印刷を伸ばすことが計画達成に向け必要」と分析する。

ただ「20年度の実績から考えれば、(今回の財務目標は)高い数字」(証券アナリスト)と懸念の声もある。エプソンは売り上げに占める海外比率が75%以上あり「為替感応度が高い会社」(島本氏)で、為替変動により利益額がぶれる可能性が大きいからだ。世界経済の不透明感が高まる中、いかに業績を安定させられるかは一つのテーマになりそう。

一方、グリーンボンド(環境債)発行などにより、有利子負債は20年度に16年度比1・8倍の2659億円まで膨らんだ。ただ、20年度の営業キャッシュフロー(CF)は前年度比3割増の1332億円と過去5年間で最も高い。21―23年度には営業CFで累計3200億円を稼ぐ目標で、うち2割の700億円を有利子負債返済などの財務体質強化に充てる計画だ。稼ぐ力の安定性が、同社の財務基盤を支えている。

日刊工業新聞2021年7月1日

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