セイコーエプソンがプリンター生産で自社ロボット導入加速
セイコーエプソンは、インクジェットプリンターの生産で自社ロボットの活用を進めている。同社のロボットは、元々時計の製造で必要なロボットを自社開発して事業化した背景もあり、高精度な組み立て技術を持つ。同社はこの強みを生かし、超精密な基幹部品「プリントヘッド」の組み立てを完全自動で行う。コロナ禍で生産自動化の重要性は高まっている。今後は組み立て作業が煩雑なプリンター本体でもロボットの導入を加速する。(張谷京子)
セイコーエプソンは、プリントヘッド「プレシジョンコア」を2013年に独自開発した。同ヘッドは高精度、高密度にインクを吐出できるのが特徴。解像度は従来機比2倍以上だ。
同ヘッドの生産を可能にした立役者となったのが、ロボットだ。エプソンは同年、酒田事業所(山形県酒田市)に自社の水平多関節(スカラ)ロボットと6軸ロボットを導入。他社のロボットや装置と組み合わせて全自動ラインを構築した。ヘッド部品の搬送・組み付けをロボットが行う。
「プレシジョンコアは全自動でないと作れなかった」。吉田佳史執行役員はロボットの導入理由についてこう語る。プレシジョンコアのサイズは、小さいもので幅58・1ミリ×奥行き8・34ミリ×高さ33・79ミリメートル。吉田執行役員は「(小さい)部品を何層にも組み立てていくのが難しい」と語る。手作業では実現できない高精度な組み立てを可能とするロボットの活用は欠かせない。
中でも、エプソンのロボットは「スピードが速く、精度が高い」(吉田執行役員)のが特徴。背景にあるのは、同社が腕時計の製造で培ってきた技術力だ。同社は、元々腕時計製造で必要なロボットを自社開発し、外販を始めた経緯がある。このため、腕時計で使われる極小部品でも、高精度に搬送・組み付ける技術を持つ。
ロボット導入に当たり、こだわったのは「人が介在しない」(同)ということ。異物の混入を徹底的に減らすのが一番の狙いだが、従業員の働き方改革につなげたいという理由もある。ヘッドの組み立てはクリーンルーム内で行っており、従業員は防塵服を着用、エアシャワーを通過してからの入室が必要。快適な環境とは言いがたい。プリンティングソリューションズ事業本部の宮坂敏明副事業本部長は「自動化で、そうした環境で働く人を解放できる」と話す。
一方、プリンター本体の組み立てでは、ロボット化・自動化で課題が残る。ケーブルを差し込む、ネジを締めるといった人間が簡単に行える動作も、ロボットに行わせるには時間がかかる。どの位置にどの程度の力加減で行うかという動作を全てプログラミングする必要があるからだ。
ただ同社は、東南アジアなどのプリンター組立工場がコロナ禍の影響で操業停止した反省を踏まえ、今後はプリンター組み立てでもロボットを活用していく。生産拠点を分散化し、リスク分散を図る。生産分野で25年度までに400億円を投資する。