サステナビリティ時代、企業存続の鍵を握る「パーパス」 とは
「パーパスなきブランドに未来はない」―2019年カンヌライオンズでのユニリーバのプレゼンでの一節だ。「パーパス」、直訳すると目的や意義だが、「社会的存在意義」という意味合いで2016年ごろから海外の広告賞などで徐々に言われ始めた。日本では2019年ごろから徐々に取り入れる企業が増えてきた。(取材・昆梓紗)
社会でどうあるべきか
従来、企業やブランドは顧客に対し価値を提供してきた。しかし顧客だけが価値を享受し、それ以外のステークホルダーが不利益を被っている場合、その企業・ブランドは結果的に支持や共感を得られない社会になってきている。
企業のサステナビリティ戦略やパーパス策定を支援する電通サステナビリティ/パーパスプロジェクトの梅津弓子氏は、「より多くの人が恩恵を得て、より多くの人が共感・応援してくれる社会的価値を提供できると、事業基盤は盤石になり、企業・ブランドの永続につながります」と話す。「パーパス=社会的存在意義」の軸を打ち立て、関連するステークホルダーとともに社会課題を解決していく企業姿勢が、今後多くの共感を得ていくことにつながる。
そしてスタンスを表明するだけでなく、実現に向けた行動も求められる。社会課題と一口に言っても、企業の事業内容や特性によって解決できる課題は異なると、エシカル協会理事でオウルズコンサルティンググループプリンシパルの大久保明日奈氏は話す。「自動車であれば脱炭素化による気候変動対策、チョコレートならカカオ産地での労働環境改善などが想定されますよね。その企業のステークホルダーから期待される課題解決の数々に対し、ビジネスにとってどれだけインパクトがあるかを特定し、自社にとっての課題に注力していくことが求められています」。
全ての問題を解決できる商品やサービスというのは難しい。しかし、「自社が解決すべき一番の課題はこれで、解決するためにこういった行動をしている」というストーリーを示せれば、一貫性が生まれ、消費者からの共感を得られやすくなる。
コミュニケーションが多面化
企業と消費者の社会課題解決を見据えた共創を目指す際には、消費者とのコミュニケーションが欠かせない。しかし、多くの企業が社会課題解決に関する活動をしているにもかかわらず、情報の出し方や温度感に苦慮している様子がうかがえる。このとき、社内にパーパスが浸透していれば、それを軸にした行動を取りやすくなり、社外に対しても一貫性のあるメッセージを届けやすくなる。
PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンスの磯貝友紀氏は、企業コミュニケーションとは、商品やコマーシャルだけでなく、多角的なものだと指摘する。例えば、『人を大切にする』と謳っているにもかかわらず、その企業の配達員による危険運転が常態化していた場合。商品や対顧客の評価は良くても、危険な運転がSNSで拡散されればそのマイナスの評価は全体に影響していく。「消費者との長期的な関係性を構築するためにも、パーパスに基づく一貫したメッセージとその実践が必要になってきます」(磯貝氏)。そして、このようなコミュニケーションはすぐに成果が出るものではなく、長期的な目線で、繰り返し訴求していく必要がある。
また、「こんなに良い活動をしています!」と強調すると、穿った取られ方をされかねない。消費者の動線の中で自然に情報に触れられるよう、組み立て方を計算しながら訴求する必要がある。
三方よしから変化する
社会課題解決を含めたパーパスを軸にした経営は、BtoC企業で取り組み始める例が多い。消費者とじかに接していることもあり、その動向に影響を受けやすいからだ。しかし最近では、法規制や金融機関、投資家からの圧力の高まりにより、BtoB企業でも進みつつある。また、中小企業であっても、取引先のBtoC企業や、最終顧客からの要請の高まりを受け、積極的に取り組む企業が出てきている。
いずれにしろ、先進的な取組みが増えている欧米企業に比べ、日本企業は遅れを取っている状態だ。「日本では昔から言われてきた『三方よし』ができていればよい、という意識で止まっていた部分があり、時代に合わせた変化ができていませんでした。構造の変化はすでに起こりつつあり、生き残りのために取り組む必要があります」(磯貝氏)。
サステナビリティやSDGsに対する意識は特に若い世代で高まりつつある。今後、彼らが消費の中心になっていくに従い、このような取り組みをしている企業が支持を集めるようになっていくことが予想される。社会課題解決、共感を醸成する関係性の構築、どちらも一朝一夕には成しえない。いち早く取り組むことに意味があるだろう。