産総研の「量子アニーリングマシン」開発。存在感を発揮できるか

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1万6000個のバンプを並べたチップの電子顕微鏡画像(産総研提供)

高速で大量の情報処理が可能になる次世代の計算技術、量子コンピューターの研究開発が世界中で進む。産業技術総合研究所新原理コンピューティング研究センターの川畑史郎総括研究主幹らは、量子力学と工学を融合させ、膨大な候補から最適解を探す「量子アニーリングマシン」の開発などを手がける。競争が激化する量子技術分野で存在感を発揮しようとしている。(冨井哲雄)

【重ね合わせ】

実際のところ、すべてのコンピューターの上位機種となるであろう量子コンピューター実現の道のりはまだ遠い。その前段階として、膨大な数の候補から最善の選択肢を見つけ出す「組み合わせ最適化問題」を解くことに特化したコンピューター「量子アニーリングマシン」に注目が集まる。

電子など量子力学が支配する小さな世界では、同時に二つの異なる状態「重ね合わせ状態」を取ることができる。この状態を制御することで、膨大な候補から最適な答えを探せる仕組みだ。カナダのDウェーブシステムズは2011年にこの仕組みを応用し、128量子ビットの超電導量子アニーリングマシンを商用化。20年には5000量子ビットの強化版を出荷した。

一方、日本では産総研の研究グループが20年に日本初の量子アニーリングマシンを実現するなど、日本勢も量子技術の実用化に向けて急ぐ。

量子アニーリングマシンの課題の一つがハードウエアの大規模化だ。5000量子ビットしかないマシンでは、組み合わせ最適解で代表的な複数の都市を効率良く回る「巡回セールスマン問題」で10都市程度の問題しか解けない。川畑総括研究主幹は「ビジネス利用には最低100万量子ビットが必要」と指摘する。

ハードを大規模化するには、従来の半導体集積回路とは異なる新しいモノづくり技術が必要だ。産総研では、「量子技術の社会実装には物理学だけでなく工学的センスや技術が必要」(川畑総括研究主幹)との観点から、量子コンピューターの専門家と、電子工学や計算機工学の専門家が連携して研究を開始している。

【超電導で接続】

2月からは量子技術の基礎研究や人材育成などに産学官で取り組む国内拠点「量子技術イノベーション拠点」の一つとして研究開発を加速する。

マシンを大規模化するには、3次元実装技術を利用し、量子ビット回路や制御・読み出し回路を相互に接続し拡張する必要がある。さらに回路同士を貼り合わせるには、数千―数万個の超電導突起電極(超電導バンプ)で二つの回路をつながなければならない。

そこで産総研は鉛とインジウムの合金を利用し、世界最高となる1万6000個のバンプを並べ、超電導での接続に成功した。川畑総括研究主幹は「世界の研究機関や企業が3次元実装技術を開発している。大規模化に向け取り組みたい」と意気込む。

量子コンピューターをはじめとする量子技術実現に各国が国家プロジェクトと挑む中、日本も「オールジャパン」体制を構築した。官民挙げた取り組みで巻き返しに期待したい。

日刊工業新聞2021年6月28日

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