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ニッケル価格急伸、車載電池材料の不足懸念高まる

インドネシアでの原鉱石輸出禁止などが背景に
ニッケル価格急伸、車載電池材料の不足懸念高まる

パナソニックの車載用リチウムイオン電池(写真はイメージ)

 世界金属統計局(WBMS)が7月に発表した2019年1―5月の世界の精練ニッケル生産量は90万6000トン、需要は96万3400トンで、この結果、ニッケル市場バランスは供給ショート5万7300トンになっている。18年のショート9万1300トンと比べるとショート幅は縮小傾向にある。

同期間の世界の鉱山生産量は98万5400トンで、18年同期比8万1000トン増加した。そんな中、ニッケル価格は急伸、7月2日はトンあたり1万2120ドルだったものが、同11日に1万3000ドル、同17日には1万4000ドルを突破。8月13日には1万5725ドルに達している。ロンドン金属取引所(LME)在庫の1万トンへの低減、中国をはじめとした新エネ自動車動向に支えられた二次電池での需要増加見通し、インドネシアでの原鉱石輸出禁止の動きなどがニッケル価格上伸の背景にあるとされている。

 ニッケル需要の70%はステンレスで、その生産と消費の増加への期待が中国やインドなどを中心に堅調である。そして、世界的な新エネ自動車化の中で、欧米での電池材料のショート懸念が高まっている。

 欧米自動車メーカーにより電池生産量の増加に従い、これまでの自動車の原材料や部材とは異なった供給リスクを有する電池用原料との認識を始めたとされる。60キロワット時の電池(NMC811)では9キログラムのコバルトとともに、11キログラムのリチウム、そして70キログラムのニッケルが必要とされる。

 7月10日、インドネシアが22年からニッケル鉱石を含む原鉱石の輸出を再禁止するとの報道があった。同国は09年に原鉱石の輸出を禁じたが、当時のインドネシア内に付加価値を残せるプラントの整備稼働状況が再考された上で、この禁止措置はやむを得ず繰り延べされた。

 最近に至り、同国内のサプライチェーンが完備しつつあり、改めてこの方向性が打ち出されたと見られる。この輸出禁止が一部前倒し実施されるとの情報がニッケル価格の急伸を支えた。

 この情報は当初の予想よりも根強く、それがさらにニッケル価格動向を左右している。公式には、インドネシア政府はそのような前倒し措置についてはあいまいにしている。

 インドネシアのスラウェシ島に位置するCNIのニッケル製錬所の建設が進んでいる。予定では21年の稼働で、ニッケル品位22%―24%のフェロニッケルを年産23万トン生産。7月末、ファースト・カンタムは来年にも豪州西部のレーベンズソープ鉱山を再開すると発表した。21年には3万トンとのこと。ニッケル価格低迷により、17年に停止されていたものだ。

 8月2日、BHPビリトンは、来年第2四半期から硫酸ニッケルの生産を開始する計画を発表した。電池産業向けのニッケル製品の販売量を増加させるためとしている。同8日情報によると、中国、盛屯鉱業は子公司を通じてのインドネシアでのニッケルマットプロジェクトへの参加を表明。年産3万4000トン(金属量)とのこと。
(文=渡辺美和<つくし資源コンサル アナリスト>)

<関連ページ>
「リチウム電池の設計自体を見直す段階に来た」

日刊工業新聞2019年8月15日

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