IPO件数が大幅増。リーマン・ショック前の高水準に
景気回復期待などで堅調な株式市場を背景に、資金調達ニーズは高く新規株式公開(IPO)件数が大幅に伸びている。東京証券取引所によると2021年上期(1―6月)の国内IPOは前年同期比21社増の59件で、資金調達を伴わないことのある東京プロマーケットを除く実質的な件数は53件だった。各年の上期比較では、旺盛だったリーマン・ショック前の07年上期(73件)以来の高水準となり、下期以降も好調に推移しそうだ。
上期に大幅に増加した要因は、コロナ禍影響による上場タイミングのずれが影響している。例年12月上場が最多で2番目に多いのが3月だが、新規業種の誕生や業績の見極めに時間がかかり、本来なら20年12月に上場していてもおかしくない企業が3月や6月にずれ込んでいる場合が多い。
SMBC日興証券第一公開引受部の酒井久和部長は「業績の見極めに各証券会社が時間をかけ、慎重にみているのではないか」と話す。「コロナの影響を受けている場合に見込み通り回復するかなどを見極める必要がある」(酒井氏)ためだ。
IPOを目指す企業の増加に加え、社会全体でもスタートアップを支援する傾向が年々強まっており、今後も右肩上がりで増加しそうだ。酒井氏は「21年は100社を超える可能性がある」とみる。
一方、“IPOありき”ではないとする変化もある。すぐにIPOするのではなく、ベンチャーキャピタルから資金調達を受けて事業を確立し、ある程度の規模に成長してからIPOを検討する企業も出てきている。21年1―3月は日経平均株価が3万円台に回復するなど株式市場は好調だったが、4月以降は踊り場にあるため、マーケットの状況が今後の不安要素に挙がる。
また、国内IPOでは初値が公開価格を上回るケースが多く、起業家に回る資金調達額が少ないという見方もあり、政府の成長戦略実行計画案に「IPOにおける価格設定過程の見直し」が盛り込まれている。日本証券業協会の森田敏夫会長は「科学的な検証をした上で、IPOの話が盛り上がっている良い機会と捉え、他にも見直すべき部分がないかも含め議論したい」としている。上期ベースでのIPOの好調ぶりと並行し、新たな動きが生まれている。