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コマツのフル電動ミニショベル、「運転席がない」コンセプト機に秘めた開発者の思い

コマツが創立100周年記念活動の一環として、リチウムイオン電池搭載のコンセプトミニショベルを公開した。3トンクラスで、リチウムイオン電池以外にも「車体中央の運転席がない」「無線LANによる遠隔操縦」「油圧を使わない電動シリンダー搭載」など多くの特徴を持つ。コンセプトミニショベルに秘められた開発者の思いを探った。(編集委員・嶋田歩)

「欧州を中心に世界全体で脱炭素の流れが起きている。脱炭素は建設機械メーカーに限らず、全人類共通の課題になる」。コマツ開発本部車両第四開発センタ次世代商品開発グループの遠藤武士グループマネージャ(GM)はコンセプトミニショベルにかけた思いを、こう説明する。

コマツの電動ショベル開発の歴史は長い。2020年にバッテリー式ミニ油圧ショベル「PC30E―5」を国内市場でレンタル発売したのに先立ち、11年に電動ショベルを発表。「それ以前も研究はしていた」。遠藤GMは打ち明ける。

コンセプト機の目指す姿は「シンプルでコンパクト」。ディーゼルエンジンだと熱源や冷却装置、タンクなど必要パーツにより大きさや形が決まってしまい、自由度がない。「電動化でその制約を断ち切りたかった」と遠藤GMは話す。

エンジンの大きさや配置の制約がないため、建機が作業者の視界をさえぎることが減り、安全性向上につながる。オール電動にしたことでIoT(モノのインターネット)や情報通信技術(ICT)への対応も容易になるという。油圧ショベルをICT対応する場合、油圧制御と電気制御の変換に伝達ロスが生じるが、オール電動はそれがないため効率化できる。

現時点でのリチウムイオン電池駆動は価格の高さ以外にパワーが少ない、稼働時間も短いなどの短所がある。20トン以上のショベルや鉱山機械では電動でなく、水素エンジンを推す声もある。コンセプト機をあえて電池式にした狙いは、稼働現場を考えてのことだ。

水素スタンドがこの先、大量に設置されるにしても、ミニショベルの稼働現場で使うには少なすぎる。電池であれば近くに充電器か発電機があれば事足りる。加えて水素エンジンは燃焼の際、空気が必要で酸素を消費する。地下室や閉鎖空間で工事する場合、人が呼吸する酸素を消費してしまうことになる。燃焼の際の熱で高温環境にもなる。そうした「人に対する優しさを考えた」(遠藤GM)上で、あえて電池式を選択したという。

コンセプト機は運転席がないため、全高が1685ミリメートル(一般的には2500ミリメートル前後)と低い。このことは「ビル内のエレベーターなどに搭載する時に役立つ」と栗原一浩チームマネージャ(TM)は語る。

無線LANも特別難しい設備は必要なく、スマートフォンやパソコン対応レベルにした。油圧信号への変換の必要がなく、オール電動のため送信情報をシンプルにでき「通信遅延もなくなった」と栗原TMは明かす。時差がある日米両国などで夜間に自宅の部屋から操縦してショベルを作業させ、人手不足や現場安全の課題を解決するのが将来の夢だ。

日刊工業新聞2021年6月17日

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