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建機業界が挑む電動化の行方。コマツ、日立建機、コベルコ建機の3社長の答え

建機業界が挑む電動化の行方。コマツ、日立建機、コベルコ建機の3社長の答え

コマツが昨年3月に国内で投入した電動ミニショベル「PC30E―5」

2021年の建設機械業界は電動化への取り組みがキーワードになりそうだ。バイデン次期米大統領は環境対策に注力する姿勢を示す。欧州をはじめ中国や日本もこれに追随する動きだ。小型・軽量の乗用車と違い大パワーが必要な建機は、電動化に向かないとされてきた。ただ、世界レベルで環境規制強化や導入奨励策(インセンティブ)が進めば、流れが変わる可能性もある。建機メーカー各社は「ビジネスへの貢献はまだ先」としつつも参入機会をうかがう。(編集委員・嶋田歩)

コマツは22年度に欧州市場向けに電動ショベルを投入する。同社は日本国内で電動ミニショベルを展開済み。まだ試験レベルで、事業形態も新車販売でなくレンタルだが、顧客の需要を探る狙いがある。

日立建機も21年度に、日本と欧州で5トン車の電動ショベル投入を計画する。欧州では8トンショベルを発売済み。コベルコ建機は「電動ショベル市場が花開くのは将来の話」と参入には慎重だが、中長期的には電動化の流れになるとみて対応準備に万全を期す。

エンジンショベルに比べ、電動ショベルの利点は排ガスを出さないことに加え、騒音が小さい点だ。都市部の工事や夜間工事が多い先進国では、この長所が追い風になる。

一方、泣き所は一にも二にも電池コストの高さやパワー不足、充電性能不足の問題。だが、乗用車の電気自動車(EV)化が進むに連れて、電池メーカーでより高性能な電池の研究開発が加速するとの見方もある。その場合、建機向け電池の難点も改善が見込まれ、文字通り「時間軸との戦い」になる。

電動化に関するテーマ以外の21年の見通しは、中国市場の活況は建機メーカー各社が認めるものの、この先も続くとはみておらず、生産能力増強や投資には慎重だ。建機の安値競争が東南アジアやインド市場に飛び火すると警戒する声も多い。経済成長やインフラ需要で新興国に成長余地があるのは確かだが、取り組み姿勢になると各社で濃淡が現れそうだ。

日立建機が欧州市場で受注活動を進める電動油圧ショベル「ZE85」

インタビュー/コマツ社長・小川啓之氏 バッテリー電動機展開

―21年の世界の建機市場予測は。

「伝統国市場の日米欧は、20年度の第3四半期(10―12月期)から回復している。当初予想したよりも回復レベルが早い。新興国市場も第4四半期(21年1―3月期)から回復軌道に入るのではないか」

―活況が続く中国市場の見通しは。

「現時点で前年度比伸び率は4割前後と高い。(1―2月の)春節時期の需要がコロナ禍で後ずれしたことに加え、政府の景気刺激策が効いている。ただ、現在の年間30万台を超える建機需要は明らかに過熱レベル。いずれ供給過多の反動が必ず来ると思う。地方債発行に陰りが見られるなど、すでにその兆候は現れている」

―建機の電動化はどのように進めますか。

「一口に電動化と言っても、いろいろな方法がある。当社の場合、小型のミニショベルはバッテリー電動、中・大型ショベルはハイブリッド、さらに大きな鉱山機械ではディーゼルエンジンで発電機を駆動して電気を作るディーゼルエレクトリック方式で進めている。今後は中・大型建機と鉱山機械分野でも、バッテリー電動を使う流れになるだろう。これから開発し、早期展開を目指す」

―開発はコマツ単独で進めるのですか。

「電動化の開発はコマツだけではできない。機種や地域ごとに、いろいろなやり方がある。それぞれでパートナーと組み、共同で取り組んでいく。電動化は現時点では高コストや出力の問題があり、直ちに普及というわけにはいかない。コストと出力よりもさらに大きな問題は、充電インフラだ。作業途中で充電したいと思っても、自動車と違って建機は工事現場付近にインフラがない。この問題をどう解決するかが課題になる」

―電動化の開発担当者の増強は。

「20年4月に電動化開発センターを立ち上げた。人数は100人規模で、機種別や地域別に電動建機の開発を進められる体制がすでに整っている。システム面も400人規模のシステム開発センターがある。この2組織を両輪に開発を進める。開発人員をさらに増やすことは考えていない。電動化市場は最初は欧米が中心だが中国やインドも早晩、排ガス規制の強化が予想される。欧米で進める電動化やハイブリッドの技術を横展開できる」

コマツ社長・小川啓之氏

インタビュー/日立建機社長・平野耕太郎氏 排ガス規制実施がカギ

―21年の建機需要をどう予測していますか。

「20年よりは増えると思っている。欧州で新型コロナウイルス感染の第3波が報じられているが、建機の稼働率は落ちていない。ただ新車の購入は厳しい。先行きが不透明で顧客は新規投資に慎重だが、仕事はあるためレンタルが伸びている感じだ」

―中国が活況です。

「20年は春節需要の後ずれでかさ上げされた面もあり21年の伸びは小さいと思う。ただ景気刺激策で急伸し直後に急落した10年代半ばのような事態は21年には起きないとみる。カギを握るのは排ガス規制がいつ、どんな形で行われるか。22年に使用規制が実施されるようだと、顧客は先を見越して21年から購入を手控えるようになる。使用でなく生産規制だと新車価格が上がるため、21年に駆け込み注文する事態も考えられる」

―電動ショベルの取り組みは。

「ドイツで2トン車と8トン車を開発し、8トン車は欧州で25台の受注実績がある。これに続き、5トン車を21年度に日本と欧州で発売する。電動ショベルは排ガスを出さないだけでなく、静音なため病院や学校関係の工事、夜間工事などに向く。日本も夜間工事で需要があるとみている」

―現時点で電動ショベルは、電池のパワーや稼働時間などに問題があります。

「電動ショベルは欧ボルボなど競合も含め、まだ開発途上だ。パワーをいかにエンジン車のレベルに近づけるか。我々はそれに近づきつつある。稼働時間も4時間で、昼休み中に充電すればほぼ1日使える。北欧や一部都市では、電動ショベルを積極的に使うように指示している所もある。そうした所へ売るには品ぞろえが豊富にある方が有利だ。さらに当社はエンジン車のエンジンを自社で生産せず、外部調達している。モーターや電池も同様に車両サイズや用途に応じA社、B社と使い分けていくことになるだろう」

―新興国や東南アジアへの拡販は。

「新興国は電力の多くを石炭火力に頼り、建機も20トンや30トンなど大型機が主力。このクラスではまだ電動対応が難しく、エンジン車が中心になる。中国建機の低価格攻勢は非常に脅威。土木に特化し価格を引き下げた機種を中国で発売したが、アジアでの展開も考えたい」

日立建機社長・平野耕太郎氏

インタビュー/コベルコ建機社長・尾上善則氏 「黎明期」しっかり準備

―21年の需要をどうみていますか。

「欧州と米国は前年比横ばいかプラスとみている。欧州はミニショベルが足元で伸びており、21年はディーゼルエンジンの新型を投入予定だ。重機も堅調。広島工場から製品を送り、代理店側で顧客に合わせたアタッチメントを装着し売る方法が成功している。米国はクレーンのシェアは高いが、ショベルはうまくいっていない。代理店が当社以外の建機も扱っており、当社製品の魅力を高める必要がある。マージン率を上げるとかキャンペーンなど、いろいろ検討したい」

―中国の状況は。

「台数ベースでは伸びているが、価格競争がやはり問題だ。今は景気政策と更新需要で台数が伸びており、価格が下がっても小さい落ち込みで済むが、3年後には更新需要も止まる。そうなれば減少が一気に来る。中国には工場が二つあるが、能力増強は考えていない。今の繁忙期でも稼働率はほぼ半分だ」

―建機の電動化の取り組みについて。

「ハイブリッド車も電池車も、21年はまだ黎明期とみている。展示会などで顧客の関心は高いが、実際に売れるかとなると話は別。電池車を21年に売り出す計画はない。世界全体で電動化が進み、行政が補助金を出し、その時点になってから動いても遅くはない。もちろん関心を持って眺めてはいるが、行動計画の中で電動化の優先順位は低い。ただ、いずれ電動化になるのは間違いなく、取り組みの考え方はしっかり作りたい」

―建機の情報通信技術(ICT)対応の取り組みは。

「(ICTで施工を効率化する)『ホルナビ』のPRを進めるとともに、遠隔操縦の『Kダイブ』と組み合わせることでより大きなメリットを打ち出し、普及させたい。小さな工事から大工事まで豊富なメニューがすでにある。ショベル、クレーンを合わせた工事現場の効率化、安全性向上を追求する」

―新興国の拡販は。

「中国と同一規模の潜在市場という点でインドに注目している。ここも価格競争が激しく、中国メーカーの低価格攻勢は脅威だが、排ガス規制が強化され構成機種も変われば状況は違ってくる。インドに現地工場を持つ強みもある。部材などは現地調達だが、エンジン、油圧バルブなどの主要部分は日本から供給し差別化したい」

コベルコ建機社長・尾上善則氏

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日刊工業新聞2021年1月5日

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