審査の質向上と時間短縮を図る特許庁のAI活用法
重要性増す
特許などの知的財産戦略は企業の経営資源として重要性が増している。特にビジネスのグローバル化で海外の特許取得が必要になる。調査対象の文献が急増する中、特許の審査の質を維持したまま高速化することが求められている。出願特許を審査する特許庁は人工知能(AI)を利用した審査システムを開発し、審査にかかる時間を大幅に縮めた。特許審査の品質向上と審査時間の短縮で、企業の事業戦略を後押しする。
特許は「自動車のモーターに使われる技術」など目印となるタグを付け検索しやすくしており、日本では国内事情に合わせた数十万件の項目に分類されている。出願特許が特許として認められるためには自国だけでなく、世界中の特許や論文、新聞などの文献を調べ、先行技術の有無を調査する必要がある。だが調査対象となる外国特許はこの20年で10倍強の年間約400万件に急増。特許庁は限られた人員で大量の出願特許を素早く正確に審査することが課題だった。
外国3000万件分類
そこで特許庁はAIを利用した審査補助システムを開発。1000万件の日本特許に関し、人手で付けられた分類データとテキストデータをAIに学習させた。このAIで約3000万件の外国特許を分類できた。さらにデータベース(DB)上で、分類した外国文献を日本語で検索できる機能も付加した。
またDB上の特許を検索する際、似たキーワードを提示するシステムを導入。関連特許をもれなく検索できるよう審査官を補助する。AIシステムの開発担当者である審査第一部調整課審査企画室の後藤昌夫企画調査官は「ベテランのレベルまで調査の質を上げられる」と強調する。
類似性を数値化
また日本での特許を対象に、特許に示された概念図や設計図などの特許図面を画像認識で特徴をAIに覚えさせ、特徴が似た特許図面を紹介する仕組みを導入。図面の類似性を数値化し、スコア順に特許を審査官に示す。後藤企画調査官は「海外特許が増える中、AI導入で審査の速さを維持できている」と導入の効果を実感している。
今後、外国特許の分類に関し、汎用性が高い自然言語処理モデルや、人が書いたような自然な文章を作れる言語予測モデルなどを適用できるか検証し、業務効率化や品質向上を図る。今後の開発方針に関し「審査官からの声を聞き、機械学習の手法などを導入し精度を上げたい」(後藤企画調査官)と審査の質の向上と効率化を進める考えだ。(冨井哲雄)