これからのビジネスに不可欠!誰もがデザインに参画するメリットとは

【特集】歩み寄るデザインとビジネス #1 グッドデザイン賞

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写真素材提供:日本デザイン振興会

「デザイン経営に積極的な企業ほど、売上が成長」―日本デザイン振興会(東京都港区)と三菱総合研究所の共同調査で明らかになったデザイン経営の効果だ。欧米でデザイン経営を取り入れて成功する企業が増える中、経済産業省および特許庁が2018年に「デザイン経営宣言」を発表。日本でもデザイン経営の考え方が徐々に広がってきた。
 なぜ今、ビジネスの場でデザイン思考が必要とされているのか。デザイン専門職とそれ以外の人がこれまでより密接に協働し、成果を上げていくために必要なことは何か。(昆梓紗)

デザイン経営…デザインの力や考え方をブランド構築やイノベーションの創出に活用する経営手法。デザイン責任者の経営チームへの参画や、事業戦略の最上流からデザインを取り入れるなどの取り組みが挙げられる。

なぜデザインに注目?

「ここ5年くらいでデザイン経営を取り入れ実績が上がる企業が増え、より注目が高まりつつあります」。国内で唯一の総合的なデザイン顕彰制度である「グッドデザイン賞」事務局を務める日本デザイン振興会の秋元淳氏は、デザイン経営の動きをこう見る。同会では、20年以上前からデザインを経営やビジネスに取り入れるための啓もう活動を続けてきた。
 こうした動きが強まったのは、2008年のリーマンショック、2011年東日本大震災という2つのインパクトが影響しているという。「従来型のビジネスモデルに限界を感じはじめた人たちが、次のモデルを模索する動きが加速。その1つが、デザインの考え方や手法を経営やビジネスに広く適応させることでした」(秋元氏)。
 非デザイナー向けにデザイン思考を学ぶ講座を開講するオフィスハロー(東京都目黒区)の稲葉裕美代表取締役は「モノやサービスがあふれ高度化した時代に差別化を図るため、人の心に響くものを提供することが求められている。それにはデザインの考え方が役立つ」と話す。

さらに、ここ数年で盛り上がりを見せる国連の持続可能な開発目標 (SDGs)と親和性が高いことも、デザイン経営の広がりを後押しする。「SDGsはモノやサービスを提供する側と、それを享受する側だけでなく、そのプロセス全てを大切にする。もともとデザインとは人を尊重し、課題を解決するためのもの」(秋元氏)。デザインをビジネスに取り入れることで、「顧客の課題を解決するためのプロダクトやサービスをつくる」、「顧客だけでなく、働く人も大切にする経営」を実現できるという考えが浸透しつつある。
 グッドデザイン賞の応募作品にも、その動きは顕著に現れている。「ただ新しいものを作ったから応募した」という作品は減少し、「課題に対してどうアプローチしたか」というものが増加。そして課題を解決する際には、関わる人全体にデメリットが生じにくいような仕組みが模索されている。

2020年度審査会の様子(写真素材提供:日本デザイン振興会)

そしてコロナ禍も、デザインとビジネスの関わりに大きく影響を及ぼしている。人との関わり方、働き方などが大きく変化し、多くの課題が見えてきた。グッドデザイン賞では2021年度以降の応募作品にコロナ禍の影響が出ることが予想されるが、「これまでに普遍的な課題となっていたものがコロナ禍により顕在化し、それにどう対応したかという軸が重要」と秋元氏は指摘する。
 例えば2020年大賞の自律分散型水循環システム 「WOTA BOX(ウォータ ボックス)」。コロナで手洗いの必要性が増したという目の前の課題に限らず、「災害時に清潔な水をどこでも使えるように」という普遍的な問題に対応したことが評価された。「デザインとは、姿形の美しさだけでなく、広く社会課題を解決するための手段だ」というメッセージが、ウォータ ボックスの受賞には込められている。

WOTA BOX(ウォータ ボックス)

非デザイナーがデザインに参画

「デザインとビジネスが歩み寄りつつあることは、『応募者』の欄を見てもわかる」と秋元氏は話す。経営者、営業、開発など、非デザイナーが名前を連ねることが増え、さまざまな人がデザインの現場に参加していることが顕れている。
 逆に、デザイン系の人材が経営に参画することで、デザイン思考を学ぶ機会を得た経営層も増えている。「スタートアップなど小回りの利く組織では、全員が当事者として、経営からプロダクトアウト・サービス化まで一貫したデザインの考え方を取り入れ、成功している例が多いです」(秋元氏)。
 経営上層に限らず、ビジネスの現場でデザイン思考が必要になる場面も増えている。オフィハローには、業種、職種を問わず多くの人がデザインリテラシーを学びに来るという。

とはいえ、デザインを学ぶのはハードルが高いと感じる人もいる。まずは「気に入っているデザイン、気になるデザインについて調べてみる」ことを秋元氏は推奨する。近年ではデザイナーが積極的に情報発信しているケースも増えている。
 また稲葉氏は「デザインミュージアムや、グッドデザイン賞をはじめとするデザイン賞を見るなど優れたデザインを広く触れてほしい。おいしい料理をたくさん食べたことがなければおいしい料理が作れないのと同じように、優れたデザインを知らなければデザインもできない」と強調する。
 私たちはデザインに囲まれ、生活している。感度を少し高くし、デザインから受けるものを感じ、その背景を考えることが、デザイン思考を取り入れる一歩になる。

日本でも盛り上がりつつあるデザイン経営だが、一方で、デザイン宣言を出したものの、続かずフェードアウトする企業もすでに出始めている。例えば大企業では1つのプロダクトに関しても多数の部門が関わっており、全員が一貫して取り入れることが難しい場合が多い。「成果が出始めている企業は少数で、まだ試行錯誤の段階。これからもトライアンドエラーが必要になる」(秋元氏)という。大企業であっても富士通は、社内ベンチャーのような形で音知覚装置「Ontenna(オンテナ)」のプロジェクトを進め、2019年にグッドデザイン金賞を受賞した。

Ontenna
 「ビジネスサイド、デザインサイド双方でリテラシーを高めノウハウを蓄積していくことが重要だ」と秋元氏は強調する。長期的な視点で評価する姿勢が必要だ。

日本デザイン振興会の秋元淳氏

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COMMENT

昆梓紗
デジタルメディア局DX編集部
記者

「デザイン」が色かたちだけでなく、機能やストーリーなどあらゆるものを内包するものだということが、広く知られてきたことも、デザインとビジネスの歩み寄りにはみられます。グッドデザイン賞の受賞作品もモノからサービス、考え方などへと大きく広がっているそうです。

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