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漂流する東芝のガバナンス問題。“圧力”問題の表面化で経営は混乱状態

漂流する東芝のガバナンス問題。“圧力”問題の表面化で経営は混乱状態

安全保障に関わるコア業種を抱える企業だけに、今回の騒動の根は深い(東芝本社)

取締役選任案、修正余儀なく

東芝のコーポレートガバナンス(企業統治)が再び揺れている。2020年の定時株主総会をめぐり、経済産業省と一体となった一部株主への“圧力”問題が表面化。5月に公表済みだった6月25日開催予定の定時株主総会に付議する取締役選任案を修正する事態に追い込まれた。アクティビスト(物言う株主)との関係が悪化した車谷暢昭氏が4月に社長を退任したことで経営の混乱は収束に向かうかに思われたが、状況が一変。成長戦略に専念できる環境は遠のくばかりだ。(編集委員・鈴木岳志、高田圭介、張谷京子)

社外取の反発 前社長含め責任明確化へ

東芝・取締役会議長の永山治氏は14日のオンライン会見で「経産省との関係などで担当者のガバナンス・コンプライアンス意識が欠如していたと言わざるを得ない」と断言した。ただ、“圧力”問題の背景として「前社長の車谷(暢昭)氏の存在が一つの要因であることは否めない。法的責任の有無はさておき、経営の混乱や、株主の信頼を損なった責任は決して無視できない」と付け加えた。今後あらためて真相究明の調査を実施し、車谷前社長を含む責任の所在を明確化する方針だ。

東芝は13日夜、“圧力”問題などに関する外部弁護士の調査報告書を受けた対応を発表した。同問題の社内調査を主導した社外取締役で監査委員会委員長の太田順司氏と、監査委員会委員の山内卓氏が25日付で退任する。

あわせて、調査報告書において経産省と緊密に連携して一部株主に“圧力”を与える中心的な役割を担ったとされる東芝の豊原正恭副社長と加茂正治上席常務も退任する。これで一連の問題に関係した社外取締役や、車谷前社長を含む当時の経営陣は一掃されることになる。

自浄作用の限界露呈 成長への道まだ遠く…

10日に公表した弁護士の調査報告書は20年の定時株主総会が「公正に運営されたものとはいえない」と認定した。これを受けて、指名委員会委員を務めるワイズマン広田綾子氏を含む東芝の社外取締役4人が、25日の株主総会に向けた会社提案の取締役選任案に異議を唱える異例の展開となっていた。

永山氏は14日、取締役会の再構築を明言した。「25日の定時株主総会終了後に国内外を問わず東芝再建の重責を担うに足る人材を取締役会に迎えたい。しかるべき時期に臨時株主総会を開催して、新たな取締役の選任を提案する」と見通しを述べた。

現在は綱川智社長のもとで、10月の発表に向けて22―24年度の新中期経営計画を策定している真っ最中だ。4月に東芝へ買収提案した英国投資会社のCVCキャピタル・パートナーズによる提示価格は1株当たり約5000円だった。

14日の終値は4770円だが、株価を5000―6000円に上昇させるような新中計を練ってきた。それを実現することで、社内で不人気な非公開化などをせずに自力成長を目指す算段だった。ただ、今回の“圧力”問題は東芝社内だけでの自浄作用の限界をあらためて露呈してしまった格好だ。

経産省は静観 あくまで「東芝の問題」

今回の一連の事態をめぐっては、東芝と経産省との関係が取り沙汰されている。外部弁護士の報告書は両者が一体となり、改正外為法に基づく権限発動を示唆することで株主に不当な影響を与えたと認定した。これが事実ならば、国家公務員法の守秘義務規定に触れかねないと見る向きもある。

経産省は現在のところ、静観の構えをみせる。11日の会見で梶山弘志経産相は「東芝の検討を待ちたい」と述べた。省内関係者への調査を含め、東芝の対応を受けて判断するとの見解にとどめた。

静観の背景には、報告書の指摘する内容が「どのような根拠に基づいて断定しているか必ずしも明らかでない」(梶山経産相)との考えがある。まずは東芝のガバナンス上の問題にとどめたい思惑も透ける。

原子力や防衛関連の技術を持つ東芝は、アクティビストへの対応に苦慮する中で所管する経産省に接触したと報告書は指摘する。経産省元参与を通じてアクティビストの提案に反対するよう株主に働きかけたともしており、民間企業の株主総会に政府が介入した点が問題視される。

安全保障に関わるコア業種を抱える企業だけに、今回の騒動の根は深い(経産省)

安全保障上に関わる技術や機微情報の国外流出を防ぐため20年5月に施行した改正外為法は、武器、航空機、原子力などの分野をコア業種と定めた。規制強化の側面が強い内容に対し、ある経産省幹部は「自由に開かれた間口を閉ざすものではない」と海外からの投資意欲をそぐことは趣旨に外れるとしている。東芝と経産省との関係が事実であれば、趣旨に相反する形となる。

安全保障との線引き焦点

中央省庁と民間企業との関係性をめぐっては、これまでも幾度となく指摘されてきた。国として安全保障上重要な技術や情報を守りつつ、企業の独立性をどう担保するかの線引きも今後の焦点となる。後手の対応が続く状況に対し、別の経産省幹部は「東芝の検討を待つ前に何らかの動きをしたほうがいいのでは」と本音を漏らす。

会見要旨「上場維持・企業価値最大化」

オンライン会見した永山取締役会議長の主なやりとりは次の通り。

オンラインで会見する永山取締役会議長
―自身の進退について。

「辞めるべきだという意見が投資家から出ている。ただ、現在の情勢をできるだけはやく正常化しないといけない。その役目を果たすのが一つの責任。今のところは、果たさなければいけない責任に集中していきたい」

―経産省との関係についての認識は。

「当社は国の安全保障上のコア事業を推進しており、常に経産省とコンタクトをとっている。(これまで)特に違和感はなかった。ただ(報告書による指摘を受け)やりとりは公正さを欠いていた。重く受け止めている」

―4人の退任理由について。

「(調査報告における指摘を受け)株主の信任を得ることが難しいと判断した」

―今回の調査報告書を受けて、非上場化は検討しますか。

「調査報告書と非上場化は直接つなげて考えていない。当社は1部上場に復帰したばかりで、多くの株主に支えられて事業運営をしているが、その形態の中で企業価値を増やすのは十分可能。(非上場化の)提案があれば当然検討するが、今の段階では上場維持、企業価値最大化を目指す立場にある」


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日刊工業新聞2021年6月15日

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