【ディープテックを追え】介護負担をセンシングで解決!「人間とロボットの理想郷」を目指して

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約680万人。この数字は、厚生労働省が集計した2021年3月末時点の要介護認定者の数だ。20年前と比較すると2倍以上の伸びとなった。当然、介護施設に入所する数も増加傾向にあるが、介護現場は人手不足の課題も抱えている。そのしわ寄せを受けるのは現場で働く職員。高齢化が進む中、ロボット技術の活用は必至だ。そこで、職員の働き方改革と入所者の利便性を両立させる製品のメーカーに話を聞いた。

臭いを検知し、データを蓄積

aba(千葉県船橋市)は排泄ケアシステム「Helppad(ヘルプパッド)」の開発を手がける企業だ。ヘルプパッドは利用者の布団に敷き、排泄した際に臭いを検知する製品で、おむつの交換タイミングを介護職員に通知する。同じような使われ方をするデバイスは他にもあるが、同社は「体に装着せず、便まで検知できるものは珍しい」と自信を見せる。また、利用者の排泄データを蓄積し、排泄の時間や頻度を分析することで、利用者個人に応じた排泄リズムを割り出すことができる。このシステムを使う施設では利用者の排泄時間をある程度把握できるようになり、定期的に排泄の有無を見回りしていた“スクランブル体制”を解消できたという。これまでに100台以上の納入実績がある。宇井吉美社長は「職員が出勤した際に、1日のスケジュールを立てやすくなる点が評価されたのではないだろうか。ヘルプパッドを普及させて、介護現場の改革に寄与したい」と力を込める。

布団に敷くだけで利用できる点が魅力(写真は同社提供)

顧客体験を自ら発見

実際、特定のガスなどをセンシングする技術自体は1960年代から存在していた。その後も技術は進化し、現在でもガス漏れ検知などに役立てられている。ヘルプパッドが使う技術もこのセンシングの流れの中にある。

では、なぜ古くからある技術が介護現場で使われてこなかったのだろうか。それは、介護業界の特有の事情によるところが大きい。宇井社長は「施設にとって、入居者は大切な存在。その方々を企業の新製品のモニターとして使われることに嫌悪感を示す施設も多い」と話す。実際、同社も実証を行う施設の確保に苦労したという。同社の場合は、製品の導入により削減できるおむつのコストなどを比較し、粘り強く交渉を行うことで実証にこぎ着けた。

また、導入においても複数のステークホルダーがいる点も難しい点だ。介護施設は、介護サービスを受ける「利用者」とサービスを提供する「職員」、そして施設の運営やコスト管理を行う「決定者」の3者のステークホルダーによって構成されている。つまり新しい製品は利用者の利便性、職員の使いやすさ、決定者の導入のしやすさの「三方良し」を実現しなければ利用にいたらない。宇井社長は「介護の仕事は体験したことがある人にしか必要な機能がわからない。そのため顧客体験は外から眺めているだけでは発見できない」と指摘する。同社では、宇井社長をはじめとした社員が実際に介護施設で職員として働くなど、顧客が必要とする視点を自ら発見し、製品に盛り込んできた。また、量産化によるコストダウンをにらみ、開発当初からセンサーはエアコンや空気清浄機に使用される汎用性のものを使用してきた。

宇井社長(写真は同社提供)

製品普及の先に目指す夢

それでも、宇井社長は「プロダクトを製造するベンチャーは、サービスベンチャーに比べ、製品が普及していく期間を耐えるための資金と時間が必要になる」と語る。同社は、21年から介護事業進出をコンサルティングするサービス「aba lab」を始めた。このサービスを通じ、当面の資金を得ながら、製品の普及を図っていく。

ヘルプパッドのような介護支援システムや、介護業務を代行する介護ロボットは、超高齢化時代を乗り切る上で欠かせない「介護テック」になりうる。それだけに宇井社長は普及の先を見据え、使う人に優しいという視点を重要視する。「介護ロボットは、使う人が心理的に不快にならず、使用感も良い設計が常に重要になる。人間と共に働くロボットにこそ、この発想が必要」―。宇井社長が介護現場の改革で思い描く夢は、人間とロボットの理想郷だ。

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COMMENT

小林健人
デジタルメディア局

ディープテックには、大学などの研究機関の最新知見を事業を通じて、社会に還元する側面と今回のように古くからのアイデアを使いやすいように製品化する2つの側面があります。これまで実装されてこなかった理由をクリアすることも、「ディープテック」と言えます。実際にヘルプパッドもコストを抑えるため、汎用品の使用やパラマウントベッドとの協業を通じて製品化にこぎ着けました。今後はメリットを訴求し、施設への普及を促せるかが重要な点です。

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