新幹線の車両重量の約3分の1を占める台車、軽量化への道
たゆまぬ軽量化
東海道新幹線開業当時の0系は1両当たり約55トンありましたが、現在のN700系は約44トン、約8割の軽量化を達成しました。国鉄時代は、東北・上越新幹線200系で車体材料を普通鋼からアルミに変えましたが、機器の重量増加を補うための軽量化で、車両全体の軽量化を狙ったものではありませんでした。JRになってから(300系以降)車体のみならず台車や機器の軽量化が進みました。
現在作られている新幹線の車体材料はアルミです。アルミの比重は鉄の約3分の1ですが、剛性を確保するには厚くする必要があり、車体がそれだけ軽くなるわけではありません。アルミの性質を活かして素材製造の段階から軽量化を目指したのが中空押出型材、ダブルスキンと呼ばれるアルミ製の段ボールのような材料です。300系には間に合わず柱に板を貼るような構造でしたが、700系からダブルスキン構造が採用され軽量化が大きく進みました。
300系で軽量化に最も意を注いだのは、ばね下重量(軸ばねより下の重量)の軽減です。主電動機を小型化して車輪径を在来線と同じ860mmまで小さくし、車軸を中空にしました。そして主電動機の回転を車輪に伝える駆動装置の歯車箱をアルミ製にしましたが、高速走行で跳ねたバラストが直撃しても壊れないよう、実験を繰り返しながら実用化しました。車両重量の約3分の1を占める台車の軽量化についてはぜひ本書をご覧ください。
高速走行するための電気回路を刷新することによって、機器の軽量化が大幅に進みました。世界の高速鉄道の中で、新幹線は軽量化がいちばん進んでいますが、その背景には衝突に対する基準が緩いことがあります。海外では貨物列車などと衝突することも想定して、頑丈な車体とする基準を設ける場合が多く、数値を比較する場合は注意が必要です。
(「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい新幹線技術の本」p.68-69より一部抜粋)
書籍紹介
新幹線の高速化に伴い、安全を確保しつつ高速でも揺れない走り、高速からの減速・停止、長い坂を抑速しながら下る技術、徹底したトラブル再発防止など、新幹線はさまざまな面で技術進化を遂げています。本書では、こうした新幹線にまつわる技術についてトコトンやさしく解説します。
書名:今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい新幹線技術の本
編著者名:辻村 功
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,650円
執筆者
辻村 功(つじむら いさお)1956(昭和31)年神奈川県生まれ。
早稲田大学理工学部機械工学科卒業。
電機メーカーにて鉄道車両用電気機器の設計業務およびエンジニアリング業務に従事。
外資系の電機メーカーおよびブレーキメーカーを経て独立。
2015年より5年間、インド国内で鉄道コンサルタントとして活躍。
技術士(機械部門)。
主な著書
『鉄道メカニズム探究』JTBパブリッシング、2012年(2013年島秀雄記念優秀著作賞受賞)
販売サイト
AmazonRakutenブックス
日刊工業新聞ブックストア
目次(一部抜粋)
第1章 新幹線が誕生するまで
第2章 未知の時速200kmによる試練
第3章 快適な旅を支える技術
第4章 高速走行を安定させる技術
第5章 時速300km以上まで加速させる技術
第6章 高速からブレーキをかける技術
第7章 電気を送り込む技術
第8章 衝突を回避する技術
第9章 安全確保へのたゆまぬ努力