「北海道新幹線」開業5年、効果は薄れ札幌延伸でも課題多く

1日平均乗車人員は約1500人、需要喚起は必須だが…

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旅客は1年目に届かず札幌延伸に期待が高まる

北海道新幹線の開業から26日で丸5年を迎える。東京から北海道・道南に直通する高速鉄道は、観光をはじめとする新たな交流を創出し、地域の活性化に役立っている。その効果を引き出すため、一層の需要喚起が求められるところだ。10年後には札幌延伸開業も控える。新幹線・札幌駅周辺で再開発が本格化する一方、並行在来線の経営分離や到達時分短縮、車両・サービスの開発など、開業までには解決すべき課題も数多い。

足元の利用は、新型コロナウイルス感染拡大による移動需要の激減で厳しい状況だ。道南を訪れる観光客がメーンであり、2020年度の1日平均乗車人員は、2月までが約1500人と低調。前年度のほぼ3分の1に過ぎず、開業初年度に記録した約6200人の4分の1にとどまる。

北海道新幹線は1年目こそ人気に沸いたが2年目以降“開業ブーム”を超えられない。JR北海道にとっては最重要線区の一つであるが、毎年100億円前後の営業赤字を計上し、経営の重しとなっている。収支改善に地域との協業やJR東日本との営業連携など需要創出が欠かせない。

開業後、函館市内では「訪日外国人客の増加を当て込んで」(地元の宿泊事業者)ホテルの開業や改装が相次ぎ、受け入れ態勢の拡充が進んだ。

19年度も複数の大型ホテルが開業。コロナ禍でホテルの稼働が低迷し、冬期臨時休業を余儀なくされる施設もあるが、収束後の観光再開、需要回復に期待は大きい。

木古内町では新幹線駅前に開設した、道の駅が「訪れる度に新しいものが並んでいる」(旅行会社添乗員)と評判が高い。交通結節点と地域の飲食・物販情報発信拠点とが相乗効果を生んだ。同町は移住者受け入れにも積極的で、コロナ禍で発生した需要の受け皿となる可能性も秘める。

一方で飛躍的な利用客増加は、札幌延伸開業まで難しい。札幌―東京間の目標到達時間は約4時間半。需要は飛行機からの転換客のみではない。人口200万人規模の札幌都市圏に路線がつながることで道南と道央、東北各都市と札幌といった流動を活性化し、東日本地域の総輸送量底上げに期待がかかる。

高速化のネックはトンネルと貨物

整備新幹線の設計速度は時速260キロメートル。「(距離が延びれば)到達時間短縮が重要になる」と深沢祐二JR東社長が話すように速達性を発揮するには最高速度の引き上げが不可欠だ。

JR北は建設中の新函館北斗―札幌間で時速320キロメートル化の差額約120億円を負担。国から利子補給を得て調達する予定だ。JR東も約120億円を投じて、盛岡以北の東北新幹線で時速320キロメートル化を施す。それぞれの時間短縮効果は約5分ずつだ。

一方、高速化のネックとなるのが青函トンネルおよび前後の貨物列車共用区間だ。すれ違い時の荷崩れを防ぐため、新幹線車両はトンネル内で最高時速160キロメートル、明かり区間で同140キロメートルに抑えられている。

年末年始や連休に時間帯を分けて運行することで、一部列車のトンネル内時速210キロメートル走行を実施し、3分短縮する。

貨物共用区間の高速化は札幌延伸に当たって最大の懸案となる。青函トンネルは物流の大動脈でもあり、新幹線の約2倍、1日51本の貨物列車が走る。抜本的な解決策として、国土交通省内の検討会では一時、本州―北海道間で貨物列車を船に載せて運ぶ鉄道連絡船の構想が浮上した。

しかし、複数の大型船新造や専用港建設、貨物線新設など大規模投資が必要なことや、農産物輸送における季節波動への対応の難しさなどから、海上転換案は事実上終息。日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)による貨物列車とトラック共用の“第2青函トンネル”提言も話題だが構想の域を超えない。

札幌延伸開業時には高速走行の時間を数時間に限定することで、貨物の輸送力を維持する“時間帯区分方式”により、すみ分けることで決着している。JR貨物の真貝康一社長は「今後、ダイヤの調整をしていかなければならない」と話す。

JR貨物の懸念は青函だけでない。新幹線開業後にJR北から経営分離される函館―長万部―小樽間“並行在来線”の問題も存在する。函館―長万部間の在来線は貨物にとって基幹線だが、函館近郊以外の普通列車利用客は1日数十人。JR貨物にも線路使用料だけでなく応分の負担が求められそうだ。

次期車両は「雪と寒さに強い新幹線」

北緯43度に位置する札幌から同35度の東京まで、南北に貫く北海道・東北新幹線では、短時間で大きな寒暖差が発生する。JR東が投入する次期営業車両では「雪と寒さに強い新幹線を実現しなければならない」(JR東幹部)。耐寒温度を従来より10度C低いマイナス30度Cとし、床下には着雪を抑えるヒーターを取り付けるなど工夫した試験車両「ALFA―X」で、営業車開発に向けた実験が進む。

次期営業車両では時速360キロメートルの営業運転を目標に掲げる。実現すれば札幌―東京間は4時間に近づく。整備新幹線区間を含めて曲線などの路盤は同360キロメートルにも対応するように設定されているため、カギを握るのは環境性能の向上、走行時の騒音対策だ。

JR東は次期車両による時速360キロメートル走行時の環境性能を、現在の同320キロメートル走行と同水準に抑えたい考え。鉄道総合技術研究所(鉄道総研)やメーカーの協力も得て、パンタグラフの改良や低騒音台車の開発、トンネル微気圧波対策の検討などに努めている。

ALFA―Xは開発ターゲットとして「快適な移動空間の創造」も掲げる。高速走行に必要な技術を確立した後の主要テーマだ。長時間の移動を乗客にとって、いかに有意義なものにできるか。空間の作り方、サービスのあり方などが課題となる。

例えばビジネス用途であれば、実証実験に着手したテレワーク専用車両の開発なども一つ。生鮮品などの小口荷物を効率よく運ぶ貨客混載対応車両も可能性がありそうだ。

新函館北斗が終着駅となる10年間はイールドマネジメント(収益管理)が需要喚起のカギを握る。休日や時間帯の集中を避ける分散型旅行が推奨される中、混雑予測を元に、新幹線料金を割り引く早期予約やダイナミックパッケージ商品などの拡大が必要となる。

旅行需要がメーンである以上、周遊性の強化もポイントだ。目的地まで1本の列車で到達するだけでなく仙台や盛岡などで途中下車して食事を楽しみ、再び北海道を目指す提案など、広域連携での魅力訴求や商品開発なども欠かせない。

試験車両「ALFA-X」で営業車開発の実証が進む
(取材・小林広幸)

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