5年間で30兆円投資、「科学技術・イノベーション基本計画」の中身

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政府は2021年度から5年間の科学技術政策を示した「第6期科学技術・イノベーション基本計画」を閣議決定し、施行した。政府の研究開発投資目標を5年間で30兆円とし、これを呼び水に官民合わせて総額120兆円を目指す。自然科学と人文・社会科学を融合した「総合知」をテーマに、研究力強化や若手人材の育成などを計画の柱に据えた。経済発展と社会課題解決を両立する超スマート社会「ソサエティー5・0」の実現を目指す。(冨井哲雄、飯田真美子)

地球課題の解決に貢献

16―20年度の第5期計画は、5年間の国の科学技術予算目標を国内総生産(GDP)の1%となる総額26兆円に設定した。3月に発表された集計結果は総額26兆1000億円となり、1996年策定の第1期計画以来4期ぶりに計画を達成した。第6期計画では、5年間で政府研究開発投資予算を30兆円に設定。官民合わせた研究開発投資の総額を120兆円にする目標も掲げ、国際競争力の強化を後押しする。

第6期計画では「イノベーションの創出(社会変革)の結果としての社会像」「知のフロンティアを開拓する研究力」「科学技術イノベーションの創出を支える人材育成」を重点テーマに掲げた。今後30年を見据えた上で、足元の5年間に政府が実行する施策を示した。

項目ごとに数値目標を設定し、各省庁が取り組む施策を明示した。一つ目のテーマである目指す社会像では、政府のデジタル化やデータ戦略の完遂、スーパーコンピューターや量子技術といった次世代インフラ・技術の整備・開発などを推進。サイバー(情報)空間とフィジカル(物理的)空間の融合で新たな価値を創出し、ソサエティー5・0の実現につなげる。

さらに温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」に向けた研究開発や、レジリエント(強靱〈きょうじん〉)で安全・安心な社会を構築するための技術開発や社会実装を進め、地球規模課題の解決に貢献していく。

研究力に関する項目では、多様で卓越した研究を生み出す環境の再構築を掲げ、博士課程学生の処遇向上や若手研究者ポストの確保、人文・社会科学の振興などを実施する。研究データの利活用やスマートラボ・人工知能(AI)などを利用したデータ駆動型研究にも取り組む。

加えて、10兆円規模の大学ファンドを創設し、世界に対抗できる大学の研究システムを確立する。萩生田光一文部科学相は「若手研究者や自由で挑戦的な研究に対する支援、10兆円ファンドの創設などを加速したい」と力を込める。

月近傍有人拠点「ゲートウェー」(イメージ=アルテミス計画)

コロナ影響、デジタル化遅れ明白

第5期計画の策定時に、世界では情報通信技術(ICT)の進化に伴い、ビジネスモデルが大きく変わった。日本では社会のあらゆる分野でデジタル技術を活用し新たな価値を創造する概念「ソサエティー5・0」を打ち出し、社会経済の新たな潮流に対応することにした。

第5期計画では、世界に先駆けてソサエティー5・0を実現するための基盤強化が盛り込まれた。だが、その前提となる社会全体のデジタル化が十分に進んでいないことが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で明白になった。行政のデジタル化やテレワークなどに対応した環境整備は、いまだに組織ごとに進捗(しんちょく)状況が異なっている。

第6期基本計画のCSTI調査会

総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の上山隆大議員は「新型コロナの影響で、第6期計画のデジタル化の遅れや社会の見直しなどの項目を書き直した」と振り返る。新型コロナで国際社会は大きく変化し、新しい生活様式「ニューノーマル(新常態)」が生まれた。経済の持続性やスピード感のある社会変革の必要性など、第6期計画の策定に多くの教訓をもたらした。研究開発と人材育成面でも、学術論文の国際的地位の低下傾向や、博士課程の学生や博士研究員(ポスドク)のポストが少ないなど厳しい環境が浮き彫りになった。

一方で、政府は20年に日本の科学技術政策について定めた法律「科学技術基本法」を25年ぶりに改正。「総合知」と「イノベーションの創出」が骨子となった。総合知は人間や社会の総合的理解と、課題解決につながる助けとなるよう位置付けた。研究開発だけでなく社会的価値を生み出すために、個人や地球規模の価値を問えるようになった。イノベーション創出では、技術革新の概念が企業の商品開発や生産活動に直結したものから、経済や社会の変化を創出する活動に変わった。今後、地球環境問題などの複雑で広範な社会的課題に対応できるようになると期待される。

社会全体のデジタル化が十分に進んでいないことが、新型コロナの影響で明白に(電子顕微鏡で撮影した新型コロナ)

これらの2本柱はソサエティー5・0の実現に向け、未来像を総合知で描き政策を立案し、技術革新を創出して社会変革するために不可欠となる。

SDGs、日本の価値観重視

第5期計画での課題を踏まえ第6期計画では、気候変動など国際問題解決への貢献やコロナ禍に対応する改革を実現する方法と国民の幸福、その政策案を示すことが求められる。工業社会「ソサエティー3・0」から情報社会「ソサエティー4・0」への移行では、生活様式や産業を含めた社会構造が変わった。

第5期計画で掲げたソサエティー5・0への移行は社会の変革を断行する必要がある。その時に国連の持続可能な開発目標(SDGs)と方向性を同じにしつつ、「信頼」や「分かち合い」を重んじるという日本独特の価値観を重視することが大切だ。信頼性の高い科学研究や技術力、質の高い社会データをつなぎ、日本の未来社会像としてソサエティー5・0を世界に示さなければならない。ソサエティー5・0を実現し、価値観を共有できる国や機関などとの連携を強めて国際社会の地位を高めることを目指す。

第6期計画を進めソサエティー5・0を実現し、科学技術をより発展に導く。新たな価値を生み出すことができるか、注目の5年間になるだろう。

日刊工業新聞2021年4月5日

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富岳

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